其の壱「くのいちパンパン

panpan

アデイは店主が店主なだけに、「小難しい話しをするバー」だとイメージされがちですが(汗)、そこは腐ってもゲイバー、会話の中心は当然のことながらエロ、下ネタである。この前も、「人生でいちばん興奮したセックス」というテーマで店内が盛り上がっているとき、店子のQくん(二十歳)が面白いエピソードを披露してくれた。

それは彼が実家住まいのセフレのところにしけこんだ折りの話。Qくんはセフレに親は出掛けて帰ってこないからと誘われ、安心してことに及んだのだが、ちょうどパンパンと掘られている最中、相手のお母さんがひょっこり帰宅してしまったというのだ!

「××ちゃん、ただいま〜」

玄関からの予期せぬ呼びかけに、四つん這いもあらわなQくんがパニクったのはいうまでもない。しかしお相手は臆することなく、
「二階には上がってこないから大丈夫だよ」
と耳元でささやき、そのまま獣のようにパンパンパンパン————。
階下からお母さんが、
「××ちゃん、ご飯は〜?」
と階段下から訊いてきても、
「いま、友だちと話してるから後でいいよー」
と悪びれもせず返答し、腰を振るのをやめようとしない。

あまりの緊張にQくんは口のなかが乾ききってしまったが、相手の堂に入った態度に、下の口はジュンジュンに濡れそぼったのだという。そして、しっかりと最後まで行為をまっとうしたというのだから、若い欲望というのはたくましいことこの上ない。

ところで、その逸話を聞いて、伏見は、いやー、ついに日本のゲイ解放もここまできたか! と感心してしまったのである。そんなふうに思ったのは、若き日の自分の体験と重ね合わせてしまったからだった。

ちょうど伏見がQくんと同じ年頃だったときの出来事だ(三十年以上も前のことだが)。当時、伏見は、「天ぷらホモ」(←もう揚がっちゃってる)とか「オリンピック・ホモ」(←四年に1回しかヤレない)などとあだ名されるくらいモテなかった。ブスな上に理屈っぽいガキだったから、当然といえば当然だ。

それがある夜、珍しくも二丁目のゲイバーのカウンターで、素敵な兄貴から声がかかったのである。三十代の高校教師の方だったが、彼はそのバーの人気者で、絵に描いたようなイケメン。思わぬ僥倖で、期待に股間を膨らませてしまったわけだが、深夜たどり着いたのは彼が親と暮らす実家だった。

恐る恐る「大丈夫なんですか?」と訊いてみたのだが、イケメン教諭は「いいよ、いいよ」といったわりに、人差し指を唇にシーっと当て、抜き足差し足忍び足……。気配を消して二階の自分の部屋に伏見を連れ込んだ。これじゃあ、まるでクノイチじゃないの!というツッコミはさておき、憧れの兄貴とヤレる興奮もあって、心臓はバクバクバクバク。

真夏だったからほんとはシャワーくらい浴びたかったのだけれど、浴室は一階の両親が寝ている部屋の近くということで叶わず、そのまま(チ◎コも洗わず)おっぱじめることとなった。声を殺してアヘアヘ。若いときの発情って、何も恐れるものはないんですね! ←Qくんのこといえない。

さて、情欲の嵐も過ぎ去り、翌朝のこと。そのお宅から失礼するため伏見が階段下に降りようとした刹那、イケメン兄貴が慌てて階段を降り、玄関とリビングの境にあったカーテンをシャーッと引いたのだ。台所に立っていた(だろう)母親に見られないように配慮したのだと思う。大胆に連れ込んだわりには小心者の高校教師。

けれど、そのシャーッという乾いた音が、まだナイーブだった二十歳の心には刺さった。親に見られるのを恥ずかしがった彼の気持ちはもちろん理解できるが、それにしても、まるでバイ菌のように遮断されたことが、なにか自分にとって大切なものを傷つけられたように感じたのである。

そのとき「あぁ、もうこんなふうに扱われるのはまっぴらだ」と惨めに思った経験が、その後の伏見のゲイリブへの志向を後押ししたのは、まんざら嘘ではない。

あのイケメン教諭が、自分の行為や自身のありようにコンプレックスを抱いていたことは間違いない。それに比べると、Qくんをパンパンした相手は、ホモ行為をしている自分や、ホモであることにはあまり引け目を抱いている様子はない。

この二人を比べるだけで時代を論じるのもどうかと思うが(汗)、しかし、Qくんのセフレのような感覚を持ったゲイは、昭和にはほぼいなかったと振り返る。みんな、なにより自分自身を卑下していた。現在だとてその傾向は免れないが、自分の性に引け目を感じていないゲイも右肩上がりで増えている。それはこの三十年の間の大きな変化だろう。

というように、店子のシモネタからですら、そんなことをあーだこーだ考えてしまう伏見は、やはり、小難しいことをこねくり回してしまう”へ理屈ママ”なのかもしれない。まあ、こんなマニアックな店主がいるバーでよければ、週末にぜひ遊びにお越し下さい。金曜土曜と、素人さんからプロの皆さんまで、ご来店をお待ちしています。

伏見憲明

イラスト・PIPIブルー