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2016年5月8日 東京レインボープライド2016  (撮影:toboji)

 

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2016年10月15日 横浜ダイバーシティパレード2016

(撮影:中野泰輔)

 

寄稿・LGBTブーム? な2016年のあれこれを振り返る 

ジャーナリスト・冨田格

 

※LGBTという表記の是非に関して様々なご意見があることは重々承知しておりますが、この記事においては当事者ではない層が使う「LGBT」という総称にも触れているので、あえて使用いたします。

火曜日の「いたるの部屋」営業の傍ら(←こっちが本職?)、Letibee LIFE で記事を書く場を与えてもらい、LGBT関連の様々なイベントを取材したり、当事者や非当事者など多くの人に直接話を伺うことの多かった2016年でした。2016年の日本LGBT事情を、僕の視点から振り返ってみようと思います。

 

2016年はLGBTブームだったのか?

 

東京のパレード史上最大の参加者を集めた5月の東京レインボープライドを始め、

4月  青森レインボーパレード(青森)

9月  虹色どまんなかパレード(名古屋)

10月 関西レインボーパレード(大阪)

11月 九州レインボープライド(福岡)

と継続して開催されている各地のパレードに加えて

4月  小倉でレインボーパレードするっちゃ(北九州)

10月 YOKOHAMAダイバーシティパレード(横浜)

11月 レインボーパレードくまもと(熊本)

と新たなプライドパレードが開催された2016年。
LGBTをキーワードにした企業の取り組みも続々と発表されました。その一例をご紹介します。

 

■企業のLGBTに対する取り組み

1月 日本IBM 同性パートナー登録制度 施行 (日本IBM)

2月 日本航空 同性カップルもマイレージ特典 (毎日新聞)

4月 パナソニック 同性婚社内規定で容認 (ハフィントンポスト)

6月 ANA 同性パートナーもマイレージサービス可能に!(Letibee LIFE)
7月 楽天 同性パートナーも配偶者として福利厚生を適用 (Rakuten)

 

また、開催直前に写真家のレスリー・キー氏が発表した「エリート・ゲイ」画像が話題を呼んだ、このような表彰式もありました。

10月 LGBTが働きやすい企業は?国内初の指標、53社が「ゴールド」受賞 (ハフィントンポスト)

 

政治的にも、セクシュアル・マイノリティの人権に関する法制化の動きが顕著になりました。

それは、一部の当事者内からの働きかけ、野党4党による法案提出、自民党の動きです。

 

差別禁止法の法制化を求めるLGBT法連合会

LGBT差別解消へ法案 野党4党提出、公明は慎重姿勢 (朝日新聞)

自民党性的指向・性自認に関する特命委員会「議論のとりまとめ」等について (BLOGOS)

 

ここに来て少々落ち着いてきた印象はありますが、昨年来、マスコミでも「LGBT」というキーワードが取り上げられることは顕著に増えていました。

この状況を「LGBTブームに過ぎない」と自嘲的に決めつける声は、当事者の中にも決して少なくないと実感されている方も多いでしょう。

特に、1980年代後半から90年代半ばにかけて起きた「ゲイ・ブーム」を覚えている世代には現状を一過性の「ブーム」だと捉える人が多いように感じます。

「ゲイ・ブーム」の時の一時的な盛り上がりを体験し期待感を抱いてしまった人は、ブームの終息に傷ついてしまっていたとしても仕方ないことだと思いますし、それゆえ現状に浮かれないよう自重される気持ちが強いのもよく分かります。
確かに昨年来のマスコミの急速な取り上げ方を見ると、制作側(報道側)の理解不足が多々目につくことがあり、そこに「ブーム」感を覚えてしまうのは当然だと思います。

しかし、私は今の状況は「ブーム」ではなく、「フェーズ」が変わったのだと捉えています。

かつての「ゲイ・ブーム」と比較して、最も大きな違いはマスコミだけではなく、企業と政治が動き始めたということです。

 

LGBT市場が注目されることは罪なのか?

 

セクシュアル・マイノリティの人権問題に長年尽力されてきた方々の中に、企業とか広告代理店などの影がちらつくことを「金儲け主義だ」と忌避する傾向が強いことはよくわかっています。
「LGBTブームに過ぎない」と自嘲される声には、広告代理店批判も伴うことが多いです。

 

私が今年の状況を見て疑問に思うのは
セクシュアル・マイノリティが市場として注目を集めることは非難されるべきことなのだろうか?

 

ということです。

 

1995年、80年代後半からの「ゲイ・ブーム」が終焉を迎えようとしている時期に、ゲイ雑誌「G-men」が創刊されました。
それを機にゲイ業界で仕事をするようになった私にとっては、大手企業が当たり前のようにゲイ雑誌やプライドパレードを支援する欧米の状況と、日本での企業の冷淡さに大きなギャップを覚えていました。

 

もちろん日本のゲイ雑誌はライフスタイル・マガジンではなくポルノグラフィーがほとんど。ゲイであろうが、男女ものであろうが、ポルノグラフィーにナショナル・クライアントが広告出稿することは考えられません。安価な価格のコミュニティー内広告(ビデオメーカー、ショップなど)よりも実売での売り上げの方が、ゲイ雑誌にとってはより重要でした。

「府中青年の家」裁判から「東京レズビアン・ゲイ・パレード」へと、ポルノグラフィー要素を捨て主張の強い誌面へと方向性を変えていった「アドン」誌の売り上げが低迷していく状況を見ながら、日本ではゲイ雑誌はポルノグラフィー以外は成立できないのだ、という確信を持つようになりました。

 

だからこそ、2000年に東京レズビアン&ゲイパレード(TLGP)が始まった時には、日本のセクシュアル・マイノリティ市場に企業が目を向けるきっかけになるのでは、と期待したのです。
欧米のプライド・パレードは多くの大企業が協賛していることを知っていたので、同じような状況が生まれるかも、と無邪気に考えていたのです。

しかし、TLGPには大企業の協賛がこぞってつくような状況にはならず、コミュニティー内の協力で支えることしかできませんでした。

 

当時、母国のパレードにはトップ・スポンサーとして協賛している企業の日本法人の方に、

「なぜ、日本のプライドパレードに協賛できないのか?」

と尋ねたことがありました。
返ってきた答えは

「欧米と日本では事情が違うので」

という、なんとも「日本的だなあ」としか思えない釈然としないものでした。

 

欧米の様子を指を咥えて羨ましげに見ているしかなかった当時と、広告代理店がLGBT市場に注目し、東京レインボープライドの会場に大企業のブース出展が増え、様々な企業が社内外でセクシュアル・マイノリティへの配慮に取り組みだした現状を比べると、まさに隔世の感を覚えます。

 

とはいえ、私は今の状況に満足しているわけではありません。

これは、もっと先のフェーズに向かう過渡期が始まったばかりだとしか捉えています。

 

権利は簡単に手に入るのか?

 

320-1そう考えるようになったのは、奇しくも今年日本で公開された3本の映画に触れたからです。

映画の中で描かれる年代順にご紹介します。

 

1969年 ストーンウォール

2002年 ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気

2008年 ジェンダー・マリアージュ〜全米を揺るがした同性婚裁判

 

「ストーンウォール」は、アメリカでのセクシュアル・マイノリティの人権運動が大きくなっていくきっかけとなった1969年のストーンウォールの叛乱を描いた作品。(この映画に関しては監督が意図的に史実として伝えられているキーパーソンの人種、セクシュアリティを歪めて描いているので問題点はとても多く、そこを理解しないで見ることはお勧めできません)

「ハンズ・オブ・ラブ 手のひらの勇気」は、ニュージャージー州でドメスティック・パートナー制度が始まったばかりの2002年が舞台(渋谷区のパートナーシップ条例と同様のシビルユニオン法はニュージャージー州では2007年に施行されました)。
「ジェンダーマリアージュ」は2008年にカリフォルニア州で一時的に同性婚が認められたものの、その後、これを住民投票により違法とする「提案8号」をめぐる裁判を描いたドキュメンタリー(2013年に最高裁で違憲と判断されかりフォルニア州での同性婚が認められました)。

その後、全米のすべての州で同性婚が認められたのは2015年6月まで待たねばなりません。

 

つまり、アメリカでは46年間かけて権利を勝ち取ってきたわけです。

 

この時間と流れを考えると、日本の状況が過渡期であると考える理由がわかっていただけると思います。
1994年に始まった「東京レズビアン・ゲイ・パレード」から紆余曲折があり2000年に「東京レズビアン&ゲイパレード(TLGP)」が開催。

その後も紆余曲折を重ねながら、2012年にスタートした「東京レインボープライド」が毎年ゴールデンウィークの時期に連続開催され、参加人数・協賛企業ともに毎年着実に増加し大きくなり始めています。とはいえ、アジア最大規模のパレードである台北での「台湾同士遊行」に追いつくには、まだかなりの規模の拡大が必要です。

2015年末に渋谷区の「パートナーシップ条例」が施行され、世田谷区では「パートナーシップ宣誓制度」が始まりました。パートナーシップ宣誓制度は、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市でも始まっています。地方自治体の動きは、まだまだ始まったばかりに過ぎません。

セクシュアル・マイノリティに関する自民党の「理解増進法」や、LGBT法連合会が提唱する「差別解消法(禁止法)」などの法制化への動きもまだ始まったばかりです。

 

様々な企業の企業内外への取り組み、自治体などの取り組み、マスコミの報道、当事者が当事者に向け、また当事者以外に向けて何らかの取り組みを始めることも、今後さらに増えてくると思います。

 

すべてはまだ始まったばかりであり、これからさらに新たなことが始まっていくと思われる状況。今が、新たなフェーズに向けての過渡期だと感じている理由をお分かりいただけるでしょうか?

 

過渡期に起きること、生まれることの中には実を結ばずに消えていくものも多いでしょうし、ピント外れとしか思えないものも続出する可能性も高いです。

しかし、そんな有象無象の中から本当に必要なものだけが認められ、大きくなって残っていくのではないでしょうかだ。

そうなることで、さらに新たなフェーズが拓けていくのだと思います。

 

異論は排除すべきなのか?

 

報道されたこと、SNSで語られたことなどに加えて、当事者やストレートの様々な立場の方に直接お話しを伺うことが、この一年、とても多かったです。

そして実感したのは、今、求められているものは、当事者間においての相互の「理解」だということです。

 

例えば、同性婚について。

日本では、早期の実現をと願う人たちもいる反面、当事者の中でも同性婚を疑問視する声は少なくありません。

実現を願う人たちが反対する異論に全く耳を貸さないまま進めようとすれば、マジョリティに理解を求めシステムを勝ち取る以前に、共に戦うべきマイノリティの中の反発によって実現できなくなる可能性だってあります。

だからこそ、当事者の間で議論を交わし理解を深めていくことがまず必要だと考えます。

 

例えば政治に関すること。

イデオロギーが先に立ってしまうと、異なるイデオロギーの考えを全面的に否定してしまう傾向が(自分を含めて)少なくないように感じていました。

今年後半、セクシュアル・マイノリティに関する人権問題に関しては、イデオロギーはひとまず横に置いて、色々な意見・考えを知り、どれが一番当事者にとってためになるものなのかを考える必要があるのではと考えるようになる機会がありました。
セクシュアル・マイノリティ全体に対して、政治が目を向け始めたばかりなのですからまだまだ「理解」がきちんとなされていないことは大前提です。

そこを把握した上で、当事者にとって有益なことは何なのかイデオロギーを超えて意見を交わし、自分たちのためになる方向に働きかけていくことが肝要ではないでしょうか。

 

まだ数年(10数年かも?)は過渡期が続いていくと思います。

異論を知りながら当事者同士の理解を深め、そして当事者以外へも理解を深めながら着実に新たなフェーズに進めていくことが、一見回り道のように思えても、最善の策ではないかと考えるようになった2016年でした。

 

 

tomita-ic冨田 格(A Day In The Life 火曜担当)
1964年生まれ。ゲイ雑誌「月刊G-men」二代目編集長(1998~2014)。
フィールドをゲイからセクシュアル・マイノリティ全般へと拡げながら、人やイベントなどを実際に取材し、平易な言葉で多くの人に伝えることを天職と考える編集者・ライターとして活動中。50代になっても、新たなことに取り組む意欲が弱まらないことに何より喜びを覚えています。仕事に関するお話はいつでも大歓迎。

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