「モエ先生の部屋」 相談1

 

みなさま、はじめまして。モエです。東京都内で弁護士をしています。通っていたお店が閉店し、その場所にアデイが開店したので、そのまま常連になりました。ゲイではないので、せっかく弁護士なのに、もしかしてエリートゲイ? とのお話を振られることもなく、残念。

今回、悩めるアデイのお客様のご相談におこたえすべく、「モエ先生の部屋」をさせていただくことになりました。店内では、いつも泥酔しているので、お悩みは、お手紙でいただいて、しらふのときにおへんじしまーす。早速、最初のご相談が来ているみたい。

 

「モエ先生、初めまして。というか、実はアデイでお見かけしたことはあるのですが、恐れ多くて、まだ声をかけることができません。

小生、そろそろ還暦を迎えるゲイです。教えてもらいたいことがあります!

小生には二十年間連れ添ったパートナーがおります。相手は四十代の堅実なサラリーマンです。

ちょうど渋谷区に居住しているので、彼と、パートナー制度に登録してみようか、などと語ったりもするのですが、よくよく考えてみると、どんなメリットがあるのかよくわかりません。

恥ずかしいのですが、小生、けっこう借金があり、自己破産するかしないか迷うような体たらく。年金もろくに払っていないので、老後は生活保護か、野垂れ死になることでしょう(汗)。

だから、もし連れ合いと法律上の関係を結んだりすると、何か相手に迷惑をかけるのではないかと心配です。

渋谷区の制度はともかく、日本でも同性婚が認められたとして、そんな禁治産者のごとき人間が結婚するメリットというのはあるのでしょうか。

つまらない質問でごめんなさい。            

(たみお・57歳) 」

 

たみおさま、お手紙ありがとうございます。

確かに、万一、病気になって入院したら保証人には誰がなってくれる? 手術の同意書は誰が書いてくれる? とか今後のことがいろいろ心配になるお年頃ね。あ、そういう意味じゃなくて?

でも、まず、キツイようですが、そもそも、相手に迷惑をかけたくないなら、結婚なんてすべきではありません。

結婚(法律用語では「婚姻」といいますが)って法律的にどんなことかというと、まず、日本では、憲法で、「婚姻は、両性(この両性とは、通説的には男女の意味と解されています)の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」とされているの。これを受けて、民法で、夫婦の同居義務、相互扶助義務、生活費(婚姻費用)の分担義務、日常の家事による債務の連帯責任等が決められていて、相互に貞操義務を負うともされています。

婚姻届を提出すると、昨日まで他人だったのに、こんな義務が互いに生じます。すごいわよ、結婚て、どんなときでも、精神的・経済的両方で、相手に対して協力してもらう権利を有し、協力する義務を負うことを約束することなの。そのうえ浮気もしちゃダメって法律で決まってるのよ。夫婦は、迷惑を掛け合い、助け合って、互いを唯一のパートナーとして、生きていくのです。教会の結婚式で、「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか。」とかいう宣誓の問いかけが牧師からされるけど、このエッセンスが憲法とか法律になっているわけです(難しい話だけど、今の日本の憲法はかなりキリスト教社会の価値観を反映しているの)。続くかわかんない愛情だけでこんなこと約束して、たいへんなことですよ。ほんとに。みんな大丈夫なのかしら。

世間様も、こんな約束してるから、夫婦にメリットを与えるわけですよ。互いに助け合う義務のある2人だから、ダンナが死んだら遺族年金もらえるし、扶養手当とかあるし、手術の同意書に署名もさせてくれるし、ひとむかし前は、ダンナの通帳を銀行や郵便局の窓口にもってけば、奥さんがお金おろせることもあったのですよ。今はいろいろきびしくなって、違うけど。でも、ダンナのクレジットカード使っている人、いまだにみかけますね。

このような結婚と同じ程度の事実婚状態にある同性カップルに、結婚と同じとまではいかないけれど、できるだけ同じように扱って不都合を少なくしよう、というのが、地方自治体のパートナー制度なの(モエの理解では)。

だから、渋谷区でパートナーシップ証明をもらうには、まず、あたしたちは、結婚と同じ約束をしているのよ!という公正証書(とりあえずこれをAとします)と、だから、どっちかがボケても最後まできちんと面倒みるわよ!という公正証書(Bとします)の2つを、原則として、まず、作る必要があります(例外もあるので、詳しくは渋谷区のHPをみて下さい。)。

Aは、渋谷区のHP情報では、例えば、お互いが、「愛情と信頼に基づく真摯な関係にあることを確認する」とか、「同居し、共同生活において互いに責任をもって協力し、及びその共同生活に必要な費用を分担する義務を負うものとする」みたいな内容である必要があって、Bは、一般的には「任意後見契約公正証書」と呼ばれるもの(ひな型がみたければ、適当にググってみて)。

パートナーシップ証明のメリットについては、生命保険の受取人に指定できるようにした会社があるとか、携帯電話の家族割が使えるようになったとか、いろいろあるみたいよ。

だから、同性婚が異性婚と同じように認められたら、そりゃあメリットはありますよ。家族割が使える、ということから、相手に経済的に依存できるということまで。「玉の輿婚」とかいうのも、こういうメリットを一方的に得られる状態のことで、玉の輿目指す女性とか多いらしいから、別に、これ目当てで結婚するのは全然珍しいことでも何でもない。

でも、メリットはあるけど、それは裏を返すと、たみおさんの言うとおり、相手に迷惑をかけるってことよ。相手に自分の面倒見させる義務を負わせるってこと。もちろん自分も義務を負うのよ。そりゃ、できないことしろってことじゃなくて、お金がないなら、精神的に支えりゃいいのよ。たみおさんができることをする覚悟があり、それで相手が満足なら、結婚してくれるんじゃない?

ていうか、お悩みのほんとのところがよく分からなくなってきたんだけど、手術の同意書とか家族割りとか生命保険とかの話で悩んでるの? それとも、男盛りの40代に迷惑かけ続けていいのかってことで悩んでるの?? でもさ、迷惑かけるのが結婚だし、40代の堅実サラリーマンが20年たみおさんと一緒にいてくれて、借金まみれなのに別れるとも言われてないんだから、もっと、自信もっていいんじゃない? 魅力あるのよ。

それに、たみおさん、生活保護だって、税金よ! のたれ死んだって、いずれ誰かに迷惑はかけるのよ。だから、迷惑かけるとかなんとかは、考えなくていいのよ。

あ、それから、今は、禁治産者という言葉はなくなり、被後見人とか言ってます。そんなことどうでもいいけど。

(モエあてのご質問は、アデイまで!待ってまーす!)

 

モエ先生 / プロフィール

「謎の女弁護士。心優しき酒豪。泥酔してアデイに現れ、MOETをしこたま飲んで更に泥酔して去っていく。たいてい、おとものラクダを連れている。」

 

イラスト・PIPI-BLUE