大塚ひかりの「変態の日本史」

第四回 獣姦で動物パワーを注入……巨大ザメが先祖の天皇家 『古事記』『日本書紀』

 デンマークではつい二年前、二〇一五年まで獣姦が合法だったそうです。動物に苦痛を感じさせない性交であれば合法であるとして、動物の売春宿まであったのです。

 いわゆる近代社会では「変態」の部類に入れられる獣姦ながら、人間の女や男が獣と交わって一族や民族の先祖になったという伝承は世界的に広がっています。

 かのデンマークの王家にも、女が熊に強姦されて生まれた子が先祖になったという伝説があるし、中国には犬が功績によって人間の女を得て生まれた子が先祖という言い伝えのある少数民族もいます(ミダス・デッケルス『愛しのペットーー獣姦の博物誌』、大木卓『犬のフォークロア』など)

 日本でも『古事記』によれば、天皇家の先祖は八尋やひろわに”(巨大ザメ。『日本書紀』によれば”)と人間の男がセックスして生まれている。

 同書では馬婚うまたはけ・牛婚・鶏婚・犬婚”(“は「くなぎ」とよむ説も)とされ、獣姦はタブー視されていましたが、天皇家の先祖の場合、はじめから相手がわに”(サメ)と分かっていたわけではなく、「出産の時は姿を見ないで」という妻のことばに背いて覗き見したところ、正体が分かったという流れです。つまり動物と知っていたらセックスはしなかったという言い訳付きの設定なので、良しという感じなのでしょう。

 古代人にとっては先祖に動物がいることがポイントで、動物パワーを取り込むことで優れた一族になったという原始的な「動物崇拝」の思想があるわけですが……

 それだけでなく、やっぱり動物を性の対象として見る目もあったのではないか。

 日本の民間説話には、男が狐と交わって子をなし、妻が狐と分かったあとも来ては寝続けたので、来つ寝”(来ては寝た)という名がついたといった話や(『日本霊異記』)、遠野の民話「おしらさま」のように娘と馬の悲恋なんてのもある。

 娘が馬と愛し合って夫婦になったため、怒った父親に馬は殺され皮を剝がれた。娘が悲しんでいたところ、馬の皮が立ち上がり娘を抱いて昇天。後日、父親の夢に娘が現れ、「台所の臼の中の虫から糸をとったら高く売れる」と教え、養蚕が始まったといいます。

 これなんか、完璧に、馬と愛し合う娘の立場で語られた話ですよね。相手は馬でも、ロミオとジュリエットばりの美しい悲恋物語です。

 ついでに言うと、原話である古代中国の『捜神記』(四世紀)の話は、全然、悲恋話じゃない。「遠征しているお父様を連れて来てくれたらお嫁さんになってあげる」と娘は馬に言いながら、約束を破った上、事情を知った父に皮を剝がれた馬のそばで友達とふざけ、皮を踏み、「お前は畜生のぶんざいで、人間をお嫁さんにほしがるなんて。殺されて皮を剝がれたのも身から出たさびだわ」(竹田晃訳『捜神記』)なんて言う。そのことばが終わらぬうちに、馬の皮が立ち上がり、娘を包み込んで飛び去った。数日後、大木の枝の上に娘と馬が蚕になって糸を吐いているのが発見されたというグロい結末です。

 日本の「おしらさま」の場合、「動物との愛欲だって、互いに好きなら有りだよね」という欲望肯定の姿勢が色濃く伝わってくるんですが、中国の説話は獣姦なんてとんでもないというタブー意識が強い。近代社会的というか、とても常識的です。

 近代だの未開だの変態だのといった概念を飛び越え、愛の物語に仕上げた「おしらさま」、世界の動物愛好者に教えてあげたいです。

 

大塚ひかり(おおつか ひかり)

 古典エッセイスト。1961年横浜市生まれ 早稲田大学第一文学部で日本史を専攻。『ブス論』、個人全訳『源氏物語』全六巻(以上ちくま文庫)、『本当はひどかった昔の日本』(新潮文庫)、『昔話はなぜ、お爺さんとお婆さんが主役なのか』(草思社文庫)など著書多数。趣味は系図作り。

イラスト・こうき