「おしえてLGBT!!」第二弾 後編

ゲスト・赤杉康伸(LGBTアクティヴィスト)&石坂わたる(中野区議)

「なぜ中野区には同性パートナーシップ条例ができないのか」

 

  • 「変人」だからこそ政治家になれる!?

伏見:それで、石坂さんが政治家になろうと思ったのはどうしてですか?

石坂:いくつかありますけど、LGBTとは関係ないところだと。(先ほど障害者関係の話をしましたが)自分の場合は社会科系の教員免許と特別支援教育系の教員免許を取得して、養護学校の教員になりました。社会科系の教員免許を取ったのは、自分自身がマイノリティで生きてきた生き辛さと、障害者関係のボランティアをやって、社会の中で多様性に配慮できる子供を育てたいなって気持ちが生じたからでしょうか。

伏見:あなた、真面目ねー!

石坂:はい。

会場:(笑い)

赤杉:ごめんなさい、この人はボケられない人なんです(笑い)

伏見:知ってた。

石坂:そんなことがあった中で、2000年と2006年に新木場で同性愛者が暴行されて、一件の被害者は亡くなられて、もう一件の被害者は怪我を負う事件がありました。加害者が中高生だったので、そこで「教育職に身を置く自分が何を出来ただろうか」っていう限界を感じて政治家になろうと思いました。あとは、自分自身が私立の養護学校の教員だったんですが、私立だと教育の質という意味では競争にさらされる。「良い教育をやっている」っていう自負心はあるんだけど、障害児教育は一人の教員が抱える子どもの数が少ないために、採算が合うかどうかって難しい。教員は若くて安給与の職員で回していかざるを得ない。じゃあ経営者が悪いのかっていうと、校長先生が非常勤だったりとか、教頭先生はお給料の何割を毎月自主返納って言うのを聞いちゃうと、それは仕組みの問題だなって思って。福祉施設とか、私立の幼稚園に努めた友人の話を聞いても、似たりよったりで、それはやっぱり仕組みの方に問題があるので、なんとかしなくちゃねって思って。あと、二人でやったTMGFの活動も、アンケートを送って返ってきたものを見ていてもそれだけで変わっていくものじゃないなって思いがあって、それが複合した中で自分として何が出来るかなって考えて。それで、自分の場合は親にカミングアウトも済んでいて、赤杉の場合も親や周囲にカミングアウトが済んでいて、選挙に出るハードルは低いなって思っていました。それで、「たまたま友人に選挙に出ないの?」って言われた時に、赤杉に相談したら、「私(石坂)のほうが障害者関係とかいろいろやっていて引き出しが多いから、私(石坂)が出た方がいいんじゃないか」って言われたのがあって。

赤杉:彼は現場を知っているから、語るべきことも多いんじゃないかって思ったんですね。

伏見:でもさ、石坂さんって……はっきり言ってコミュニケーションに難があるじゃん?(笑)

会場:(爆笑)

赤杉:むしろ、変人じゃないと議員なんてできないんですよ。

伏見:実は、他人の文脈に鈍感な人のほうが議員に向いてる?

石坂:ふつうの人が駅前でいきなりメガホンを持って喋ろうとは思わないでしょ。

赤杉:支持を得ようといろんなところに出向いて、すごく迷惑そうな顔をされても、「お願いします」っていうのは、常人はできない。

会場:(爆笑)

伏見:やってみて「自分は向いてるな」って思った?

石坂:最初は嫌でしたけど、慣れたら自分は向いてるなって思いました。

伏見:でも、たしか、最初の選挙は落ちたんだよね。

赤杉:落ちました。2007年のことです。でも落ちた時の票が1091票だった。もっとボロ負けだったら周りも本人もあきらめたかもしれませんが、当落ラインを鑑みて1091票っていうのはもうひと押しだ…と。

伏見:え、何票だったら当選だったの?

石坂:1400票くらいでしたね。

赤杉:だから上澄みは必要だけど、中野では1,000票超えたら泡沫とまでは言われないくらいの微妙な線だったので、どうする?って。熱心な支持者とか、石坂のお母様とかから「これで投げるのは無責任」って言われて、「じゃあまたやりましょうか」って感じですね。

・イケメンなら票が取れるか?

伏見:最初の選挙の後、戦略的に同性愛者であることにこだわりすぎて負けたと言っていたでしょ。それに対する反省もあったの?

石坂:ボランティアさんの8,9割が、選挙戦で同性愛者であることを前面に出したことで集まってきたということもあったわけだけど…

赤杉:むしろ周りが「もっとLGBTのことをやれ」とか「なんでLGBTのことをやらないんだ」ってことを言ってきて、本人はもっと福祉のこととか教育のことを訴えたかったんだけど言えなかった。彼の代弁をすると、それで、彼はLGBTのことがすごく嫌になったの(笑)。

伏見:つまり、同性愛者をカミングアウトして立候補すると、そのこと一辺倒になっちゃうことに対して反撥が生じた。

石坂:やっぱり支援してくれる人たちに左右されるところがあって、そうなると結局他のところには触れられなくなる。最前線で有権者と話をする中で、シングルマザーの人とか事実婚の人とかが「同じような問題を抱えてます」って言ってくれて、自分はそこにアプローチしたいんだけど、それを後ろで支援してくれる人たちが許してくれない、みたいな構図ができた。「そんなこと言ってる暇があったら、LGBTのことを発言しろ、そうじゃないと手伝わないぞ」、みたいなことがあったので。

伏見:中野区はゲイの居住者が多いって言われてるじゃないですか? 同性愛者ってことを石坂さんはカミングアウトして立候補して、実際、ゲイ票っていうのはあったんですか?

石坂:なくはない。けど、ゲイの中でも自民党を支持する人もいれば共産党員もいるし、全部入ってくるわけじゃないので、実際に「石坂さんが立候補してくれて良かった。でも自分はどこどこの組織に入っているので、そこの人に入れなきゃいけない、でも応援しています」みたいなメールもありました。

赤杉:まあ至極当たり前のことだけどね。

石坂:ゲイだからってゲイの候補者を推すわけじゃないので。

伏見:ゲイの議員って当時はいなかった。だからゲイをカミングアウトして選挙に出た候補者なんだから、多少は票が入るような気がするじゃないですか。

石坂:区議選って、中野区は42人選ばれる選挙なので投票に行かない人もいるから、有権者の1%が確実に支持すれば入る選挙とも言えるので、LGBTはその中で3%いたとしても「3分の1入ればいけるから」っていうのもなくはないですよね。

伏見:でもそういうことにはならなかった。日本ではゲイだからゲイに投票する、なんてことはなくて、LGBTイシューにプライオリティがない。それは尾辻かな子さんの参議院選挙の投票の出方を分析してよくわかった。

最初の選挙は結局、落選して、石坂さんが次に当選するには「もっとジム行け!」とか「短髪になれ!」みたいな意見もあったわけですが(笑)、結局、そういう方向には行かなくて、そのままの石坂さんで次も立候補して、今日ではゲイ票じゃなくてお爺ちゃんお婆ちゃんたちの票で地盤がある。

石坂:あと、障害者団体とかそういうところも支援してくださいました。障害者関係のことを政策に上げて活動していると、障害者団体の代表の方に、「同じマイノリティとして生きづらさっていう点では共感できるし、石坂さんは障害者のこともやってくれるからうちの団体を応援したいんです」って言ってもらえたこともありましたね。

赤杉:中野区内では「LGBTの石坂」というイメージの人はあんまりいないと思うんだよね。「福祉の石坂」って思ってる人の方が多いんじゃないかな。

伏見:ゲイの有権者についてどう考えているんですか?

石坂:一定の票は入って来ているでしょうから、LGBTに関する取り組みもします。政治家として取り組む場所ではあるんだけど、政治屋さんとして旨味がある場所ではない。自分自身の当事者性があるわけだし、それで気付くことができる部分もあるから政治家の使命として課題にするけど、そこで見返りが返ってくることは期待してはいないです。

伏見:あの、すごく意地悪な質問なんだけど、例えば、すっごくマッチョなイケメンが選挙に出たら、中野区でゲイ票って入るかな?

赤杉:ある程度入るんじゃない?(笑) ゲイ受けするかはともかく、そもそも中野区って、新人イケメンの上位当選枠はあるんですよ。

伏見:(笑)それは政党とか関係なくあるんですか?

赤杉:関係なくありますね。

石坂:でもゲイの票とは限らないけどね。

赤杉:ゲイっていうよりも、女性票かな。

伏見:じゃあイケメン枠もあるけど、逆に言えば、石坂さんは中途半端にイケメン枠に自分を寄せようとは思わなかった。

赤杉:伏見さん、「中途半端に」って!(笑)

伏見:ハハハ、高齢者と障害者の支持を得るほうが戦略として正しかったわけねー(笑)。

石坂:政治屋さんとしてはそうですね。

赤杉:石坂さん、ここは笑うところですよ!

客席:(笑い)

伏見:じゃあ、一回目の選挙はある程度、アイデンティティ・ポリティクスの選挙戦だったけど、2011年の二回目の区議選は違う形になった。

石坂:自分はゲイであることは事実なんだけど、何をしていくのかについては「ゲイのことだけじゃないよ」っていうのが、二回目の選挙でしたね。

赤杉:より打ち出したいことを打ち出せた。2011年の統一地方選って、ゲイでは、石坂さんと、当選した石川大我さんと、新宿区では歌川たいじさんが出ていたんですけど、ゲイのボランティアさんは石川さんや歌川さんのところに手伝いに行っちゃった。逆に「違う方向に舵を切ったからアクセスしました」っていう当事者の人もいた。そこで繋がった絆が今に至ってることもあるから、どう転ぶかわからない。

伏見:性的マイノリティへの差別がうんと厳しかったら、そこで社会とコンフリクトが起きて当事者が団結するって構図が成り立つけど、日本はそうでもない。大変なところもあるけど、緩いっちゃ緩いところもあるから、そうすると、アイデンティティ・ポリティクスで戦うのはあんまり意味を成さないことだと思うんだよね。どうですか?

石坂:選挙事務所の中の話になっちゃうけども、色々なボランティアさんが来てくれる関係で、障害者関係の親御さんとゲイの当事者が繋がって新しいことを始めようという動きが起きていたりしたので、何かしら生きづらさを感じている人たちの集まりなんだろうけど、生きづらさを感じている原因に関係なく人が繋がるような選挙事務所の雰囲気だったし、それが選挙のスタイルには出ていたんじゃないかと思います。

赤杉:だから2011年の選挙なんか、事務所にガッチリしたガタイのいい男の子と、中性的な男子のボランティアがいて、その二人はお互いに「あの人はゲイなのかな?」「あの人はトランスかな? レズビアンかな?」って思っていたみたいなんです。でも結局二人ともノンケ男子だったみたいなことがあって(笑)、そこではアイデンティティ・ポリティクスっていうよりは、それぞれの「生きづらさ」であったり、「社会がこうなって欲しいね」って言う希望を話せることが大事だったんだと振り返ります。