大塚ひかりの「変態の日本史」  

第五回「うんこ中の美女のまんこを突く神、女をあきらめるためうんこを盗む男 『古事記』『今昔物語集』」

 スカトロといえば変態の王者の風格さえ漂いますが、日本神話はこの手の話も当然のようにフォローしています。

 畏れ多くも初代神武天皇の皇后となるお方が、神のスカトロ趣味から生まれているのです。

 神武天皇にはすでに即位前から妻子がいましたが、さらに大后おほきさき”(皇后)にふさわしい美人を求めた際に、臣下が言うには、

「ここにいい乙女がいますよ。神の御子です。というのも、その母親が凄い美女だったので、三輪の大物主神が気に入りまして、その美女が大便をしようとした時、丹塗り矢に化けて、大便が流れる溝を上流から流れてきて、美女のほと”(まんこ)を突いたんです。美女が驚いて走り回ってうろたえたあげく、矢を床のあたりに置くと、たちまち凄いイケメンになった。それで夫婦になって生まれた子の名が、ほとたたらいすすきひめの命というわけです」

 ほとたたらいすすきひめとは「ほと”(まんこ)に矢が立っていすすき”(うろたえた)ことにより生まれた姫」、「まんこ矢立ちあわて姫」というような意味の名です。のちに本人はほとの名を嫌って、ひめたたらいすけよりひめと改名した。これだと「姫の部分(ほとを言い換えた語)に矢が立っていすけより”(神霊が依りついた)姫」の意味となり、少しはトーンが和らぎますが、「うんこ中に矢が立って生まれた姫」という意味合いはまだ残っている。

 名前に「まんこ」が付くのはイヤでも、「うんこの時、母が神に見そめられた」という事実は何ら恥じる必要はないというか、むしろ神に選ばれたことが名で分かるからこそ皇后にふさわしいという理屈に、うんこや性をとても重要視している古代人の感覚がうかがえます。

 とはいえ現代人から見れば、ふつうに神のスカトロ趣味で生まれた姫という感じなんですが、穢れを落とす最大の機会であるトイレは聖なる場所でもあったんでしょう。

 スカトロ話はその後も日本の古典文学には数多く見られ、有名なのが、平中へいちゅうと呼ばれる色好みの男が、好きな女を諦めるため、そのうんこを奪った話です(『今昔物語集』)

 なんでうんこを奪うことができたかというと、当時の貴族は、箱や壺にしたうんこを下女が川などに捨てるというライフスタイルなので、その女のうんこを捨てに行った下女をつかまえたわけです。

 そこからが男の異常なところで、うんこ箱を開けた男は、丁字(クローブ)などの香料の香りがするので不審に思い、黄色く丸めたうんこ状のものを木で突き刺して鼻にあてて嗅いだり、中の薄黄色の汁をすすってみたり、果てはうんこ状のものを少し嘗めてみるんです。「うんこを盗まれるのでは?」と警戒した女が香料で作ったレプリカのうんことおしっこを下女に持たせていたという設定で、うんこ状のものは、

にがくして甘しというんですが……

 どう見てもこれはスカトロ趣味ですよね。たとえレプリカのうんこにしても。こんな話が、立派な古典文学全集に載っているんですから、日本は楽しい国です。

 

大塚ひかり(おおつか ひかり)

 古典エッセイスト。1961年横浜市生まれ 早稲田大学第一文学部で日本史を専攻。『ブス論』、個人全訳『源氏物語』全六巻(以上ちくま文庫)、『本当はひどかった昔の日本』(新潮文庫)、『昔話はなぜ、お爺さんとお婆さんが主役なのか』(草思社文庫)など著書多数。趣味は系図作り。

イラスト・こうき