あっきー★らっきー水曜日 その2

「人生の夏休みに」

 ちょっ慣れてきた一方で、魅力的な方々を一同に集める「店の重力」を実感している、あっきー@アデイ水曜です。

 これを読む方は、本好きの方も多いかと思います。ですので、ひとつテーマを決め、作品をピックアップしてみてはと考えました。ジャンルや刊行された時期などには縛られずに、良書を紹介できたらと思います。

 まずテーマにしたかったのが、「人生の夏休み」です。本来ならば、勉強も仕事もせず遊び呆けて許されるという、自堕落かつ甘美な響きを持つはずの「夏休み」ですが、図らずも、そういった季節を過ごさざるを得ないことがあります。

 感情がオフ状態になり、筋肉を動かすための信号もなぜだか伝わらない。一日中ベッドにもぐり、色彩が失われた世界をひたすら呪う。この「夏休み」に課せられた宿題は、ただ「休む」ということ。たとえば、そんな出口の見えない休暇を送っている時に……。

 田中慎弥『孤独論』(徳間書店)は、芥川賞を「もらってといてやる」と高らかに言い放った小説家による本です。タイトルに掲げられているのは「孤独」なのですが、併記されているのは、「逃げよ、生きよ」というサブタイトル。どうすかね? これだけで思わず感涙する私のような方には、もしかすると有効な処方箋かもしれません。

 ルーティンの業務を続けるうちに、次第に心身が硬直していき、頭で警告音が鳴り出し、あげくに声をあげることができなくなっていたら……。こんなブラック企業の例のごとく奴隷状態にある人は、総じて「思考停止」していると著者はいいます。だから、会社や学校を辞めたり、引越しをすることで奴隷から脱却し、本来の自分を取り戻すんだ、と。いわば、これは緊急避難の方法です。不安や恐怖に怯え、自身の客観性を失ってしまったら、四の五の言わずに逃げる。このことだけ覚えておけば、再生の道を辿れるはずなんだと信じます。

 この本の語気は、強い。上から物言う作為など皆無ですが、無駄のないストレートな文章に、なぜか背筋が伸びる。これは、手を使い原稿用紙に書くことを貫くから著者だからこそ伝わる肉体表現たる故であり、痛切なメッセージです。群れに反旗をひるがえしたかのような受賞会見を思うと、あれは著者の大いなる宣言だったように思え、妙に納得します。

 それにしても、過去のトラウマだったり、将来の不安だったり、どうして負の感情が亢進するのを抑えられないのか。それが、今現在の自分に直接的に危害を与えるわけでもないのに。

 中野信子『脳はどこまでコントロールできるか』(ベスト新書)を手に取ったのは、本書には脳の特性を理解し、それを逆手に脳をダマし、さらには人生を変えていこうという狙いがあったからです。

 一読して目の当たりにした脳の複雑な解説に対して、「自覚的にコントロールするなんてやっぱ無理〜」と思いましたが、脳も人体を形成する器官のひとつと客観的にとらえると、エラーに対しても、すこし寛容になれるような気もします。

 本書では、「成功者」と呼ばれる人を例に、科学的に裏付けがある方法を挙げています。 快楽に関与する脳の部位である報酬系ですが、これを常に活性化させるべく、にんじんを目の前にぶら下げ続けられる人が、成功していける人の要件とのことです。

 にんじん、かあ……。たとえば、「他者に愛されること、褒められること」も報酬系と結びついているそうで、これは他の生物にはない人間だけの特徴だそうです。にんじんとは、つまり「他者」ということなのでしょうか? もしここで他者の承認に関する問題を絡めると、面倒になる……。などと思いながら、では、にんじんを、チンコに置き換え、目の前にぶら下げててみると、どうなるだろう? そこで、「よし、見えたっ!」と、湾曲した解釈にて膝を叩いた私です(くだらない!)

 この脳科学からのアプローチをさらに実践的な内容に翻訳したかのような本が、田中圭一『うつヌケ』(KADOKAWA)です。本書は、「うつトンネル」を抜けた人たちへのインタビューをもとに構成した漫画なのですが、病気の症状も、寛解へ至る筋道も、バリエーションに富んでいて、まるで専門医が書いた本のような説得力です。こんな「あるある集」、あるようでなかったです。

 著者は、「うつトンネル」について、多くの話からある結論を導き出します。それは、「人は自分が好き。肯定されたい。必要とされたい」ということ。「これに抗うと心が弱る」んだと。なんてシンプル! 不思議と屈折なく届いた言葉が、爽快でした。

 

あっきー(水曜担当)

【プロフィール】 1975年埼玉生れ。出版社に16年間勤務し漫画や小説などの編集に携わったのち、なし崩し的にフリーに。NPO法人「企画のたまご屋さん」では、出版プロデューサーを務める。https://twitter.com/shiruga_man