あっきー★らっきー水曜日 その3

「文芸編集者は、枕営業をするのか?」


当たり前に接していた二丁目の店子たちですが、彼らのすこぶる高い対話力を改めて実感している、あっきー★@アデイ水曜です。

今回のタイトルに関しては、このひと言に尽きます。

「そんなこと、あるわけないじゃん!」

ただ「期待」をあおっただけのようで申し訳ないのですが、「枕営業」がまかり通るという幻想を持つ人もいるようで、違和感を抱いてます。

先日、作家と文芸編集者の関係について、嵐が出演するバラエティ番組がきっかけで、ネットがざわざわしたようです。その日、新刊の『劇場』が話題の又吉直樹がゲストでした。出版界に詳しい人物として登場した出版プロデューサーは、知人の文芸編集者の話として、次のようなエピソードを披露しました。

ある女性作家がイケメン編集者を自宅のベッドまで招いて、こう言ったそうです。
「ねえ、お願い」
彼が見ると、ピンクのネグリジェを着た女性作家の姿が。しかも、背中のファスナーが半分だけ降りている。彼女の言葉に対し、彼の行動は……。さあ、目の前のファスナーを上げるのか、それとも……。
ここの判断が重要であり、彼はファスナーを上げなかったために、3冊の作品を書いてもらったのだといいます。

コントかよ! 笑えないけど。
スタジオも、「何が言いたいの?」と言う二宮和也をはじめ、苦笑する出演者でした。

とはいえ、「もしかして……」と立ち止まります。私が文芸に携わったのは、時間も場所も限定的です。文芸とひとくくりにしても、ジャンルや作家の傾向はさまざま。そういった「枕営業」が当たり前の世界もありえるのか、振り返ってみます。

人気作家には、多くの出版社から執筆の依頼が殺到します。毎年のように小説を出版する作家もいますが、数年に一冊というペースのほうが多いはず。そんな中で、イケメン編集者は、他社のベテラン編集者を差し置いて、(昼も夜も)人気作家を独占できるのだろうか?

編集者は、担当作家に作品を執筆してもらうために、あらゆる力を注ぎます。興味を持ってもらうための題材というボールをいくつも投げてはスルーされ、打ち返ってくることは、本当にまれです。そこで、編集者が自身の知識や経験を深めるための努力をするとしても、夜のお相手をして仕事を取ろうという判断をするのだろうか?

純粋に、編集者の「イケメン合戦」が過熱したとして、当事者の女性作家や男性編集者、さらには出版社の評判はどうなるでしょう? そんなことを続けていたら、自身や会社、業界までもが世間から突き放されると思わないのだろうか?

今回の番組を観た直木賞作家が、ツイッターにて次のように反論しました。

「女性作家だけでなく男性編集者の名誉も傷つける発言だし、そもそも、もしもこれが男女逆だったら、と想像してみて欲しい。それこそ、笑い話としてバラエティ番組で放送されることはあり得なかっただろう」

では、男女逆にして、男性作家には美女のパターンを。

真夏の夜、美人編集者を海辺の別荘まで呼んだ男性作家。その浴衣の帯が半分ほどけている。いきなり電気が消され……。
「おい、お願い」

応用して、ゲイの作家には体育会出身のパターンで。
夏祭りの人員にラグビー部OBという担当編集者を呼んだゲイの作家。その六尺が、少し緩んでいる。尻を向け言う言葉は……。
「なあ、頼む」

やっぱりコントだ。しかも、ちょっと面白くなってる! しかし、いろいろ考えてみて、改めてこの結論です。

「んなわけ、ねーじゃん!」

おそらく、図らずも面白くなったことはポイントであり、その原型である女性作家のエピソードも、立場に抗えない関係を揶揄し、笑いにしたかったかに見えます。さらには、この出版プロデューサーの発言には、コンプレックスと差別がないまぜになったものが、二つの対象に向けられているようです。ひとつは文芸の世界、ひとつは女性です。

文芸の世界が閉鎖的に見え、よく分からないと感じるのは理解できます。しかしそれは、小説家の筆ひとつにすべてが委ねられている業界だからで、小説家を尊敬し守ろうとする編集者の思いがあるからです。また、「地位や能力のある女性」に対して、男性が「きっと女という武器を使ったから」と脳内で処理する現象も、散見されるものです。きっと、「大女優」や「女社長」が出てくるドラマや映画が面白いのも、これを逆手に取っているからですよね。

ひとつ付記したいのは、女性作家は偏見を持たれることが少なくないことです。元来、文壇と呼ぶべきような所は、男性的な匂いがぷんぷんしました。厳めしいたたずまいの男性作家のヤニ臭い仕事場、日参して原稿を受け取るフケまみれの男性編集者。現在は珍しい光景ですが、そこから生まれた男性中心的文化は今も残っているようです。一方で、「女流作家」という言葉のように、女性が書くものが本流から外れた「亜流」と見なすといった傾向もありました。現在は、「女流」という表現は、「処女作」のように、差別的な含みがあるとして、積極的に使用するべきではないとされています。

今回、「枕営業」について取材したわけではなく、すべては私の想像範囲内です。ちなみになんですが、この出版プロデューサーは、私も参加するNPO法人の名誉会長をやっているそうです。現時点で面識はありませんが、私にだけ、こっそり実情を教えてもらえますでしょうか?

 

あっきー(水曜担当)

【プロフィール】 1975年埼玉生れ。

出版社に16年間勤務し漫画や小説などの編集に携わったのち、

なし崩し的にフリーに。NPO法人「企画のたまご屋さん」では、出版プロデューサーを務める。

https://twitter.com/shiruga_man