パヨクのための映画批評 19

悪の花咲く妄想ミュージカル 

~「シカゴ」(”CHICAGO”、2002年、アメリカ)~

ちょっと世の中やべえなっていう時、アメリカでは何も考えないで済む映画が好まれるとよく言われます。「ララ・ランド」しかり、もう誰も思い出さないミュージカル映画の「アーティスト」(2011年)も、おそらくは「あーもう何も考えたくないよう…」という時だったのでしょう。「ゼロ・ダーク・サーティ」じゃなくて「アルゴ」に賞やった2012年もそうだったのでしょう。思えば、「glee」やレディ・ガガのブーム、同性婚の盛り上がりの中、ネオリベラル・ハリウッドに完全に騙されて夢観ていたのは私だけではなかったはず。

今回は、パヨクゲイ真っ盛りだった頃の私を、今考えれば未知の領域に誘っていたミュージカル映画「シカゴ」を取り上げます。イラク戦争おっぱじめた頃のアメリカで、ミュージカル映画としては久々にオスカーの作品賞をもらうという快挙を成し遂げたウルトラゲイ向け映画。

妹と夫が浮気している現場に出くわして二人を殺害したクラブ歌手ヴェルマ。続いてヒモ男を殺害してしまったアンポンタンな女ロキシー。野心満々の罪人達が送る、悪の花咲く妄想ミュージカル。

本作は、「黒船が来ちゃった!」のインディ・ジョーンズ体験に次いで、私の人生に大きな影響を与えた映画です。パヨクがこんな映画の何に感化されうるのか。それはひとえに「ゲイ」というチャンネルだったと言えます。監督、脚本はゲイの方、プロデューサーは監督のダンナ、というゲイまみれの映画で、そして主演はレニー・ゼルウィガーさん&キャサリン・ゼタ・ジョーンズさん! 当時、この二人が主演でミュージカルっていうだけで軽く喜びの目眩を感じたんだけど、映画館で観て、最初っから最後まで笑いっぱなしで、結局3回観に行きました。

ところで、レニー・ゼルウィガーさん&キャサリン・ゼタ・ジョーンズさんは、歌は別々に録音したっぽいのね。エンディング曲「I move on(状況が最悪でも、次行けばいいのよ、というやけくそ応援歌)」は、ゼタ姐さんがコンマ1秒長く伸ばして勝利している、と音楽家の友人に言われたので聴き直したら本当にそうだった!

当時のレニーは飛ぶ鳥落とす勢いの女優でした。子供めいたふわっとした顔で、「ベティ・サイズモア」の狂気のアンポンタン役がはまってしまう彼女からは想像つかないんだけど、彼女、テキサス出身のものすごいがつがつした野心家なのよ。本作では野心家の顔が余すところ無く引き出されています。

2003年。この映画のCDを朝から晩まで聴いて、家の中で歌ったり踊ったりしてました。そしたら映画鑑賞後2ヶ月後に当たる6月のある朝、不意にファルセットでレニーの歌が歌えたのです・・・それは後年ゲイの合唱団でカウンターテナーやることに繋がっていくのです。

レニーは本作ではころっころ顔が変わります。堀ちえみさんのような顔で踊ったかと思ったら、男みたいな顔になったり、最後は「ベット・ミドラー風」と言われる顔になったりと忙しい。特にゼタ姐さんが彼女にすり寄るシーンの意地悪顔ったら・・・

皮肉にも、本作のレニーさんは輝きすぎてその後役選びが難しくなってしまったのではないかと思います。アンポンタンで身勝手なロキシーの妄想をミュージカルとして表現するという、何ともゲイっぽいアイデアにものすごい説得力を与えた。私の大好きなシーン、最後の2人の悪人ステージさえも彼女の妄想なのかも、と考えるとうっすら怖くもあり、場末感がハンパありません。

ところで、本作では、小泉元総理に似た色男俳優、リチャード・ギアも変な声で歌って踊ります。面白いのが、この人のセクシャリティが全く描かれないこと。「ララ・ランド」ならば男性の内面がこれでもかと伝わってくるのに、本作のギア様は完全に空っぽ。ゲイという設定と思って観ても違和感がない。他に、ジョン・C・ライリーがいい声・いい演技で、ロキシーの寝取られ亭主やります。この役も、善人だが奥行きの無い男として描かれています(そして上手い)。相対的に男性が添え物扱いの映画です。これはやっぱり、監督のロブ・マーシャル姐さんの手腕なのでしょう。しかし同じ姐さんが後年撮ったミュージカル映画「ナイン」は、男性のグダグダを描く映画だったためか、シカゴと対照的にラストに爆発力が無かった。ああ男の映画ってそうだよなと知りました。

さて「ララ・ランド」は早くも「3年後誰も思い出さない映画」リスト入りしているが、「シカゴ」は未だに色あせない。ドタバタ走り回って最後は悪の花が咲くが、何故か痛快。パヨクの人生の中で「「正しい」「正しくない」の前に、直感的に感じるものを掴むこと」を知り始め、新しい感覚にうれしくなってた頃に観た本作、次の関門「世間に出る」に正面衝突するまでの半年間、私を明るく照らしてくれていたのでした。

 

執筆者・竹美

ほぼカムアウト状態の会社員。九州のパヨクな家庭に育ち、パヨク思想に染まっていることに無自覚なまま二十歳を迎え、周囲の同級生が順当に就職活動を開始した頃、全然やる気になれず焦って大学院へ逃亡。それが、「企業=金儲け=巨悪」だと信仰していたためだと自覚したのはその10年後。「思想転向」のリハビリ過程で、「真っ先に悪を告発する紅衛兵」の素養を小学生位のときに発揮して同級生にウザがられていた記憶もフラッシュバック。

このコーナーでは、映画を通じて「私やあなたというパヨク」の滑稽で哀しく、正しくて誤っている物語を発見していきたい。