パヨクのための映画批評 20

星条旗が翻るクリント・イーストウッド映画~

「アメリカン・スナイパー」(”American Sniper”、アメリカ、2015年)~

私はこの連載において、ハリウッド映画に関してはネオ・リベラル派に近いところに位置する作品を取り上げてきました。しかし、直ぐに敵を見つけてしまいたくなるパヨクという病を治したい人にまず必要なのは、一見正反対と見える意見をしっかり吟味し、そこに「もう一つの正しさ」を見つけることです。

私の性根はパヨクであるのみならず、酔っ払いのオネエで自分に甘い。そんな私の対極にあるハリウッド映画と言えば、やっぱりクリント・イーストウッド映画。イーストウッドさんの映画は、映画としての品のよさや質の高さにおいて評価が高く、撮れば必ず売れるという、ハリウッドの至宝。そして禁欲と規律を重んじる保守派の心のふるさと。もしかしたら、「我慢」を前提とした日本社会にとっては馴染みやすい映画かもしれない。それでいて「今、アメリカ人として」反省も促すというセンスのよさ。もちろん、ドラッグやお酒による酩酊なんてもってのほか。「6才のボクが、大人になるまで。」みたいな、リベラルお母さんの12年に亘る暴走を描く映画とは対極にあるはず。

いつも通りおまいの前置きは長ぇな。

というわけで、今回は、イラクで狙撃手をした実在のアメリカ人男性、クリスの伝記「アメリカン・スナイパー」について考えてみようと思います。

地理上も、精神的にも完全に正反対側にいる者として、本作でまず気になったのは、主人公クリスの子供時代。強烈に厳格な父親に育てられた結果、「守るもの」としての義務を強く植え付けられていることが描写されます。これね、リベラル・パヨク系の人が本作を作っていたら、父親のせいでクリスの性格が歪んだことにするか、父親のことを極力描かないでしょう。或いは「ザ・コンサルタント」みたいな漫画になってしまう。

また、クリスが海兵隊に入ることを決意するシーンが興味深い。週末弟と外で楽しく飲んで家帰ったら、彼女が別の男と浮気してたのね。咎められた彼女は「週末に弟とばっかり過ごして、あたしをほったらかして!」と切れるの。クリスは「女性を怒らせても、自分の何が悪いのか分からない」というノンケ男としては比較的よくいる(いや、ゲイでもこういう人いるな)タイプなのよ。そんで彼女が出てって超ショックな時に、テレビでアメリカの海外の施設へのテロ攻撃のニュースを見て、突如海兵隊に入ることを決意しちゃいます。目の前の「女」というストレスから逃れるかのように、いきなり頭のスイッチが切り替わるのです。また、その後は再びテレビで9.11のニュースを観ます。そのときの彼の目もやはり同じ目、完全に心奪われてしまっている。この、何というか、自意識の欠如した純粋なクリスチャンの若者が、テレビを通じて「国を守るために敵をやっつけに行くんだ」という風に決意を固めて行くプロセスが秀逸なの。人はそれを思想教化と言いますよね。

さて、狙撃という仕事に秀でていた彼は仕事に夢中になります。もちろん戦争ですから、狙撃という仕事の内容に苦悩もしているし、家庭と妻を愛する男性でもある。しかしね、いかんせん仕事に夢中になることが男のロマン(ゲイでもその傾向あり)。すると妻からは「心がここに帰ってきてない」と軽く非難される。じゃあ彼も職場に行ったほうが気が楽だわな。義務感と仕事への熱中に区別が無いのです。そういう風に育てられているので。

尚、クリスの弟もイラク戦争に従軍するのですが、疎遠になってしまったのか、途中から一切描かれません。それは少し不自然なのよね。妻や子供との距離が広がる中、彼は仕事を辞める決意をします。もう耐えられなかったんだな、仕事のストレスに(と描写している)。そして退職後は、男性の物語あるあるの「献身的な(理解のある)妻に支えられて輝きのラスト」を迎えそうになりますが…最後は悲痛。

他に気になったのは、本作を観ると、リベラルのオバマ時代は最初から存在しなかったかのように見えるということです。よっぽど嫌いだったんだろうね。ポリティカルコレクトも嫌いだもんね、イーストウッドさん…ちなみに、ゴリゴリ保守のクリスチャン男と見られるクリスは、女性に対して丁寧に対応できる人として描かれます。覚えているかしら、パトリシア・アークウェットさんがネオリベ映画「6才の…」の暴走ママ役でオスカーをもらった時に、「女優は未だに男優より給料が低い。あたしのもらった金額は犬の散歩代程度よ」と言い放ち(もうちょっと言い方考えようよ…)、それをメリル・ストリープ大先生が大絶賛したあの年のハリウッドにおいて、うがった見方をすれば、イーストウッドさんは「保守側だって女性を大事にしているんだ」と言いたかったのではないかしら。実際のクリスがそうだったのかどうか、ということよりも、それをわざわざ伝記映画の中で分かりやすく描写したことが興味深い。

本作、意外かもしれませんが「戦争っていけないよね」と皆が思える映画です。「ハートロッカー」がどことなく戦争を面白がってさえいるように見えたのとは全く違うこのウェットな男の物語。イーストウッドさんはイラク戦争反対でした。私は腐ったパヨクなのでついつい忘れがちなんだけど、中東を戦場にしてしまったのはオバマ期最悪のお土産。レインボー色の夢の裏でアメリカという国は戦争をしていた、ということをイーストウッドさんは声を大にして言いたいのではないかしら。

 

執筆者・竹美

ほぼカムアウト状態の会社員。九州のパヨクな家庭に育ち、パヨク思想に染まっていることに無自覚なまま二十歳を迎え、周囲の同級生が順当に就職活動を開始した頃、全然やる気になれず焦って大学院へ逃亡。それが、「企業=金儲け=巨悪」だと信仰していたためだと自覚したのはその10年後。「思想転向」のリハビリ過程で、「真っ先に悪を告発する紅衛兵」の素養を小学生位のときに発揮して同級生にウザがられていた記憶もフラッシュバック。

このコーナーでは、映画を通じて「私やあなたというパヨク」の滑稽で哀しく、正しくて誤っている物語を発見していきたい。