大塚ひかりの「変態の日本史」その7

「亀や蛇とやる話 『日本霊異記』など」

 魚類や両生類や爬虫類とのセックスというと、変態そのもの! という感じがしますが、古代日本の文学には、そういう話がたくさん出てきます。

 天皇家の先祖はそれと知らずにメスの大ワニ(昔のワニはサメといわれています)と交わって子を成したし、皆さんおなじみの『浦島太郎』も、似たようなところがあります。

 『丹後国風土記』逸文(本文は散逸したものの、別の書物で確認できる本)にある「浦嶋子うらのしまこ」によれば、浦島太郎(嶋子)はそもそも魚を釣りに沖のほうに出ていた。

 しかし三日三晩しても魚一匹釣れず、代わりに五色の大亀が釣れた。不思議に思いながらも、亀を船に置いたまま寝ていると、亀は絶世の美女になった。これが亀比売こと乙姫さまです。で、

「イケメンが一人で海に漂ってるから、仲良くなりたいと思って風や雲に乗ってやってきたのよ」

と言う。助けた亀に連れられて乙姫さまに出会うのではなく、乙姫さまのほうからイケメンをハントしに来たんです。

 そして、浦島太郎の目をつむらせて海中の御殿(竜宮城)へ案内し、両親に紹介して宴会が始まる。そのあと二人はみとのまぐはひをする。セックスをしたんですね。

 鯛や平目が舞い踊り~~というのは彼らの結婚披露宴で、乙姫さま(亀比売)の本体は大亀だったわけです。

 三年後、故郷が恋しくなった浦島太郎は乙姫さまが泣いて止めるのも聞かず、人間界に帰る決意をする。そこで姫が取り出したのが玉匣たまくしげ”(玉手箱)

「私ともう一度会いたいなら、決して箱を開かないで」

と姫は言うんですが……

 地上に戻ると、三年だと思っていたのは三百年で、知る人もいない。それで浦島が約束を忘れて玉手箱を開けると、箱の中からかぐわしい姿が風や雲と共に天に去ってしまう。

 ここ、童話ではお爺さんになるくだりですが、『風土記』の原文によると、箱の中に入っていた姫の化身が天に飛び去ったようにも読める。浦島が涙ながらに歌を詠むと、雲の彼方を飛びながら姫が返歌したことになってますし。

 どっちにしても、浦島太郎ってもともとは、大亀に化けた(というか、大亀が本体の)美女と海中でやりまくる話だったんですから、「亀の恩返し」の童話より全然クィアじゃないですか?

 日本の古典にはこの手の話がたくさんあって、日本最古の仏教説話集『日本霊異記』(八二二年ころ)には、蛇と交わる娘も出てくる。

 七五九年の夏四月、河内国の金持ちの娘が桑の木に登って葉を摘んでいたところ、大蛇も木に登ったので、通りすがりの人が娘に注意した。すると娘は大蛇と共に地に落ちて、大蛇に犯されたまま気絶してしまいました。

 それを見た娘の両親は医者の指示で、娘と蛇を同じ板にのせ、きびの藁三束を焼き、湯と混ぜて煮詰め、そこに猪の毛十把を砕いて粉末にしたものを調合。娘の頭や足を固定して両足を広げ、つび”(まんこ)の中に、作った汁を一斗ほど流し込みました。こうすることで娘にくっついていた蛇が離れたので殺して捨て、一方、娘の性器からはカエルの卵のようになった蛇の子が流れ出たので、さらに汁を三斗入れると、蛇の子は皆出てきて、汁の中の猪の毛に刺されて死んだ。

 こうして娘は意識を取り戻したものの、三年後、再び蛇に犯されて、今度は死んでしまったのでした。

 蛇と交わる話というのは、蛇の形態がちんこを連想させたり、はたまた蛇ののみこむ習性がまんこにつながるということもあってか、世界中にあります。

 イブに禁断の果実を食べるようそそのかしたのも蛇ですからね。イブと蛇はその実、ヤったんだろうと思います。

 仏教でも蛇は罪の象徴で、『日本霊異記』の著者は娘と蛇の関係を悪契”(悪い因縁)と断じています。

 けれど、三輪の大物主神などの日本の古い神の本体は蛇ということが多く、神はセックスで人間とつながっていたわけで、この娘も、神話時代なら蛇を本体とする神に仕える巫女というところだったでしょう。

 それが仏教の影響で、前世からの悪縁をもった変態女ということになってしまう(そう考えると、浦島太郎も、乙姫=海の女神に仕える男巫子と、とらえることができるかもですね)

 魚類(サメ)や両生類()、爬虫類()と人間の交わりを描く日本神話や浦島太郎の原話は、そうした仏教が普及する前の、自然との関わり方を象徴しているのかもしれない。敵対するより和合する、と。和合するけれど、別れは訪れる、と。そんなふうに考えると凄く普通な関係である気もして、何が変態なんだろう、変態って何なんだろう……と、思ってしまうのです。

 

大塚ひかり(おおつか ひかり)

 古典エッセイスト。1961年横浜市生まれ 早稲田大学第一文学部で日本史を専攻。『ブス論』、個人全訳『源氏物語』全六巻(以上ちくま文庫)、『本当はひどかった昔の日本』(新潮文庫)、『昔話はなぜ、お爺さんとお婆さんが主役なのか』(草思社文庫)など著書多数。趣味は系図作り。

イラスト・こうき