あっきー★らっきー水曜日 6

「僕が漫画編集者だった頃」

 誰もいない出版社のワンフロア。いくつかの島に分けられているデスクの列は、それぞれの境界が分からないほど、本や封筒が積み上げられている。ミーティングスペースには、出前の蕎麦やかつ丼が食い荒らされた状態で放置。おっぱいがいっぱいのグラビア雑誌や、最新のゲーム機もあちこちで目に入る。ああ、なんてかぐわしき「男子臭」。というか、ただ「むさいだけ」という場所。

「部室かよ? ここ……」

 配属されて初めて足を踏み入れた夢見る新入社員は、必ずそう思うはずだ。しかも、これは早朝の景色ではない。間もなく太陽も真上に到達するような、午前11時を過ぎた頃の様子だ。

「いったいみんな、いつ出社すんのよ?」

 戸惑いつつも、新入社員は、とりあえず各新聞に目を通し、残飯をまとめてゴミ袋に放り込む。すると、鳴り出す電話。主張を激しくして響く音に、おそるおそる応対する。

「漫画の原稿、持ち込みたいっすけど〜」

「え?」

「漫画描いたんで〜、見てもらいたいんすけど〜」

「あ、……はい」

 ここは、漫画雑誌の編集部。「漫画の持ち込み」を見ることは、漫画編集者の仕事のひとつ。そこに、原石が見つかることもある。とはいえ、ド新人編集者、いきなりそれなりなアドバイスができるだろうか? 実は、意外とできちゃうものである。だって、僕がそうだったもの。かれこれ20年近くも前、そこに僕はいました。

 随分な昔話をしましたが、発端は一枚の年賀状でした。その頃のブツは、きれいに捨て去ったのですが、部屋からあるイラストを発掘したんです。

「あ、ジョジョっぽいイラスト。谷田知彦さんの年賀状だ!」

 彼は、僕が持ち込みを受け(たかは定かではないけど)、担当した漫画家の一人です。絵柄が『ジョジョの奇妙な冒険』に似ていたために、編集部内では、「あのジョジョっぽい人」などと呼ばれていました。彼は漫画賞をささっと受賞し、雑誌に掲載もされました。また、若くて技量が高かったので、編集部でアシスタントが足りないときなど、ご協力をいただいていました。

「誰か、手が空いている人いない?」

「あのジョジョっぽい人なら……」

「じゃ、頼んでみてくれない? あのジョジョっぽい人に」

といった具合で。

 僕は、3年足らずで異動してしまったので、具体的な連載などを立ち上げるには至らなかったことが、悔やまれます。しかし、文芸雑誌に移った頃にも、あの大沢在昌さんの連載小説の挿絵を担当していただいたりと、長いお付き合いが続きました。

 のはずなのですが、もうずっと連絡をしていない……。その年賀状を眺めることしばし。僕は、そこに記されているアドレスにメールを送ってみました。しかし、使用されておらずエラー。携帯番号へのショートメールも、通じず。「そんなもんだよな」と、その時は諦めました。

 しかし、考えること数日。なぜだか谷田さんの「あのジョジョっぽさ」が思い出され、スッキリしません。試しに、グーグルで検索してみると、なんとカドカワから単行本が出ていることを発見しました。今も漫画を描き続けていることに、うっすら感慨を抱きます。

「おっと、初恋の相手を掘り起こす今さらなアラフォーって、こんな感じかいな?」

と、浮き足を立ててFacebookで名前を検索します。すると、見事ご本人がヒットするではないかっ! 嬉々として、メッセージをお送りしました。ほぼほぼストーカー。

 後日、お会いした谷田さんのお姿は変わらず、家族と幸せに過ごす近況は嬉しい限りでした。また、思い切ってアデイ水曜のドアにかける看板のイラストをお願いしたところ、ご快諾をいただきました。店にも足を運んでいただき、「前からゲイ受けするって言われてるんすよ!」という言葉を改めて確認し、帰られたようです。

 実はジョジョっぽいだけではないイラストの看板、今週から外にかかっています。是非、装いは新たな水曜日、「あっきー★らっきーBAR」をお訪ねくださいませ!

 

あっきー(水曜担当)

【プロフィール】 1975年埼玉生れ。

出版社に16年間勤務し漫画や小説などの編集に携わったのち、

なし崩し的にフリーに。NPO法人「企画のたまご屋さん」では、出版プロデューサーを務める。

https://twitter.com/shiruga_man