秘技「レンコン」でビルを買う!?

三橋:最初、私が育ててもらったゴールデン街(左画像)のことを調べていたんですよ。ゴールデン街は新宿最大の「青線」で、ゲイタウンのある場所は「赤線」じゃないですか。いろいろ関連があって、両方とも調べざるを得なくなった。ゴールデン街にも女装ゲイ系のお店が何軒かポツポツあったんです。今でもあるけど。一番古いのはジョージさんのところ。

伏見:僕はそっちはまったく分からないんだけど。

三橋:ジョージは、かなり地位のある方や有名な方も通ったお店で、それで、亡くなった後、記事が普通の新聞にかなり大きく載ったんです。ゴールデン街の女装ゲイ系のお店のマスター、ママたちって、けっこういわゆる「男娼上がり」、セックスワーク系の人が多いのです。セックスワークでお金を貯めて、「青線」が廃れたあと、ゴールデン街のお店の権利を買うというパターンです。ジョージさんも立川の男娼の親分だったんです。私は、その子分だった方にインタビューしたので知っていたのですけど、ジョージさんがご存命の間は書けなかったんですね。

伏見:三橋さんが知っているかどうかわからないけれど、90年代はまだいたと思うんですが、今のアデイからアイソトープの先の青線に行く鍵状のあたりに立っていた、太めの女装の方ってご存知?

三橋:知ってます。

伏見:「エリザベス」って我々は影で呼んでいたんだけど。

三橋:『女装と日本人』のでちょっと触れている方。最初はただのおばさんが立っているのかな、って思っていた。

伏見:そうそう。

三橋:なんでこんなところにおばさんが立っているんだろうって思っていたら、向こうから「こんばんは、寒いわね」みたいに声を掛けてくれて、それでそういう人なんだ、っていうことがわかったんです。92、93年くらいの話。

伏見:その方に取材されました?

三橋:してない。

伏見:その方は、僕なんかにも「お兄さん寄っていかない?」っていってくるような感じで、冬なんか寒風の中で立ちんぼうしているは大変だろうなって思っていたの。それで近所の店のおばさんに、「あの女装の人、寒くて大丈夫なんですかね?」って聞いたら、「あの人ねー、品川かどこかに本宅があって、二丁目にビルを持っているのよ」って。「え! 趣味だったの!? 」みたいな(笑)。意外と、男娼の方で、お金を貯めて二丁目の物件を持ってる方がいたらしいです。

三橋:私も違う人だけど、「あの人はビル持ちよ」って方、知っている。

伏見:だからバカにしちゃいけないのよね。ていうか、自分のほうが断然、貧乏!(笑)

三橋:同じような話で、90年代の歌舞伎町に今の私より明らかに年上のおばさんなんが立っているわけです。元は男娼のわけですけど、その頃はもっぱら道案内なんですね。遊びたい人がそのおばさんに「どこか面白いお店ない?」って尋ねると、連れていってくれるわけ。それで、連れていった先で、お小遣いをもらって、プラス一杯飲ませてもらう。私がお手伝いしていた店(ジュネ)にもときどき現れるので、その人が帰った後、同情して「大変ですよね」っていったら、ママに「順子ちゃん、あの人はマンションを持っているのよ。マンションを持っているっていうのは、マンションの一部屋を持っているって意味じゃないわよ。マンションごと持っているのよ」って教えられてびっくり。

客席:(笑)。

三橋:男娼でボロボロになって死んじゃった人もたくさんいるけど、中にはそうやって成功した人もいる。

伏見:三橋さんのいう、街が廃れた時期とかに買ったんじゃないんですかね?

三橋:だいたいそうでしょう。タイミングが合うし。東京オリンピックの前の東京浄化運動(1961~1963年頃)で、新宿の男娼の取り締まりが厳しくなって、そろそろ足を洗おうかなっていう時期と、「赤線」「青線」がなくなった後、二丁目やゴールデン街が寂れた時期って重なりますから。

『性欲の文化史1』(講談社選書メチエ)という論集に「女装男娼のテクニックとセクシュアリティ」という論考を書いたんですけど、女装男娼の場合、皆さんはバックを使うと思うだろうけど、そうじゃないんですね。「レンコン」っていう秘技があるんですよ。手を筒状にして後ろから股間に回して、もちろんヌルヌルするものをつけるんですけど、そこにお客のペニスを誘導する高等テクニック。私は体が硬くてできなかったんですけど。

客席:(笑)。

三橋:それだと物凄い効率がいい。早い話、仕事の後は手を洗えば済む。

伏見:あ、だから、数を稼げる!

三橋:そう、数を稼げるの。

伏見:それでビル買えるほど蓄財できたのかあ。うわっ、面白い。ところで、「レンコン」っていうのは別の意味があるじゃないですか。ちょっと古い二丁目の人だったら知っているかもしれないけど、たとえばゲイバーにノンケの人と一緒にきている場合なんか、自分がゲイだってバレたくないときに、「今日はレンコンでね」っていう。

三橋:あ、「秘密でね」って意味があるんです。

伏見:それはどっちが早いんですか?

三橋:わかんない。「レンコン」って言葉はどんどん展開してっちゃったんだけど、たぶん「秘密でね」って意味のほうが後で、それが今の二丁目には残っているのだと思う。本当の「レンコン」っていうのは、専門的にいうと「錯交」。性交だと錯覚させるということ。実際におやりになっていた先輩に聞くと、「順子ちゃん、男娼でいちいちお尻を使っていたら体がもたないの。それでけっこう誤魔化せるのよ」って話でした。

伏見:(スタッフを見て)褌こうだいなんか、ケツを使えないんだから、「レンコン」を学んだらいいじゃない?

こうだい:そうですね。バニカスとしては「レンコン」を習得しないと。

三橋:私が話をうかがったその方に「バレないんですか?」って尋ねたら、「実をいうと一度だけバレた」っていうんですね。「レンコンって」手筒だから底がないわけですよ。それで、すごく竿が長いお客の相手をした時、先っぽが下の畳に着いちゃったんですって。

客席:(笑)

三橋:しかも、畳が古くて毛羽立っていたから「痛!」ってなって、本当の女じゃないって気づいて怒りだし、走って逃げたけどけっこう追いかけられて大変だったって。そういう実話があるんです。