パヨクのための映画批評 26

働く意地っ張りネエさんへの応援歌~「ありがとう、トニ・エルドマン」(“Toni Erdmann”、2016年、ドイツ・オーストリア)

 

私は市場経済導入してからそろそろ10年を過ぎようとしています。ベルリンの壁壊して、改革開放して、ドイモイして、コルホーズ・ソフホーズ止めてダーチャで作ってた野菜売り始めた、みたいなもん、ってもう意味分からないわね、要するに、まともに就職して10年って意味よ。

約10年ほど前に、恩師を裏切って大学院から脱走した私は、仕事を見つけ、東京の片隅に住み着きました。「左翼」「社会性が無い」「バランス悪い」「甘えている」「ごくつぶし」「内面はグダグダ女」「子供っぽい」…色々な男達が、いや言葉が私の中を通り過ぎたの…びゅおおおお

働かなければ生きられない世界に縛られている以上、自分と相談しつつ状況に慣れるしかない。或いは、ある程度頑張って働ける健康と幸運をかみしめるべきなのだろう。

…でも会社はね…あなたの自己肯定感の低さに取り憑き、生血を吸っている吸血鬼だという側面も忘れてはダメ…

さて今回の映画。ベルリンの壁崩して20年以上過ぎたドイツの映画です。働くという怨霊に取り憑かれてしまったアラフォーキャリア女性が主人公が主役ね。コンサルタント会社(=高級占い師)で働く猛烈女性社員、イネス。仕事仕事で余裕のない娘を案じたその父、ヴィンフリートは、「トニ・エルドマン」という架空の人物になりすまし、イネスの行く先々に出没。嘘を吹聴してはイネスを慌てさせる。

でね、イネスの役柄、何か日本にも普通にいそうなのよ! キャリア志向で、猛烈社員で、グローバリズムにガツガツ乗っていくタイプの女性よ。職業:世界対あたしコンサルティング。彼女はルーマニアででっかい仕事を取って一旗揚げてやろうと躍起になっているの。

エマニュエル・トッドの著作によれば、ドイツはEUにおいて一人勝ち状態で、南欧や東欧等を経済的に搾取・支配しているそうです。東欧などからは優秀な人材がどんどこドイツやイギリスに出てってしまう現在の欧州…これがミヒャエル・エンデを生んだドイツでしょうか。まずそこに驚いた。『モモ』で、時間泥棒によって心が貧しくなってしまった現代人というのをあんなに風刺していたのに?(パヨクのドイツ幻想)

パンフによれば、父親の世代はまさにエンデが描いたような、効率第一の働き過ぎ社会からの離脱を重視した世代なのだとか。戦後復興とナチズムの払拭という課題の中で、労働時間を短縮したり、社会保障を充実させ、チェルノブイリの後には緑の党選んで環境問題にも乗り出したドイツ。

それと逆行しているようなのが、グローバリズムにうまいこと乗ったドイツを象徴する娘の世代。ルーマニア人に「グローバル派は嫌い。色んな言語ができる人はみんなルーマニアを捨てて外国に行ってしまう」と言われちゃう。イネ子は、現地採用の若いアシスタント女性に「もっとドイツ語使いなさい」と指示するし、それを憧れのまなざしで見つめるアシスタントが素直でかわいい。

イネ子、ルーマニアまで行ってゴリゴリ仕事して、休みの日にもお客さんのロシア人の奥さんアテンドしたり、会食で何とか点数上げようとしてしくじる様が必死なの。そして職場の中に潜む男尊女卑もさらりと出てくる。これ、日独伊三国同盟のイタリアも似てるそうよ。「これが私の人生設計」(原題は「私が存在してしまってごめんなさい」)というこれまたキャリア30代女性の映画をご覧になって。男尊女卑仲間の日独伊。そんな体たらくだから戦争にも負けたんだって、自称親米左翼のトッドさんを喜ばせるわけよ!!

この親子、元々仲は良いの。だからこそ、今頑張りたい娘は父の奇行を疎ましく思っちゃう。だけどイネ子、数日で帰ることにした父を家のベランダから見送った後に、一人でしくしく泣いてしまうの…頑張って頑張って仕事やっててもさ、自信なんかないのよね、本当は。外国で一人、寂しくて不安で心細い。私ならできる、私だからやれる、そんなことを言ってたって、疲れちゃったらもう、些細なことにイライラしてしまう。イネ子、自分の誕生日パーティを完璧に演出して、職場のチームの士気を高めよう、なんて悲壮な(だからこそ他人から見れば滑稽な)目標を掲げるんだけど、気合の入りまくったタイトドレスに体が収まらない、そしてついにイネ子、大爆発(そのシーンは全てが大爆笑)。

業務量が多かったりトラブったりミスったりして上手く行かなくて、キーーッと修羅の顔になって、ちゃんとできない自分も周りも誰もかれも許せないがそれは本当は誰のせいでもなくて単に私が私であるが故なため、みんな、壊してやる(帝都物語)!!!!ってなってるヒス女性とヒスオネエ(あたし)には、ぐちゃぐちゃな私を見守ってくれる、馬鹿げたピエロのようなトニ・エルドマンが必要なのだろうか。まあ結局、他人から見りゃあ愚かで滑稽極まりない姿なのよね、仕事で格闘している人というのは。マルクスが教えてくれなくても「頑張った分全部がお金に代わるわけじゃない」し、評価さえされないかもしれない、と知っているわけ。でも何か頑張っちゃうの。我武者羅な努力が全部、べらぼうに高い賃金として分かりやすく跳ね返ってくるアメリカ的な社会だったらこういう話にはならないんだろうな。

イネ子と違って大した能力も無い私は、どこ見回してもぐっちゃぐちゃでしょうもない性根を今日も会社で晒すののビュオオオオオオオ

 

執筆者・竹美

ほぼカムアウト状態の会社員。九州のパヨクな家庭に育ち、パヨク思想に染まっていることに無自覚なまま二十歳を迎え、周囲の同級生が順当に就職活動を開始した頃、全然やる気になれず焦って大学院へ逃亡。それが、「企業=金儲け=巨悪」だと信仰していたためだと自覚したのはその10年後。「思想転向」のリハビリ過程で、「真っ先に悪を告発する紅衛兵」の素養を小学生位のときに発揮して同級生にウザがられていた記憶もフラッシュバック。

このコーナーでは、映画を通じて「私やあなたというパヨク」の滑稽で哀しく、正しくて誤っている物語を発見していきたい。