「あっきー★らっきー水曜日」8

文学賞パーティーの泳ぎ方

 前回、文芸編集者として作家と行動を共にしていた頃について触れたのですが、書ききれなかったことをもう少し。というのも、頭で休眠していた記憶が芋づる式に発掘され、自分がいた世界について、「独特だなあ」と初めてのように思うに至りました。さらには、「無駄だなあ」と、精神的労働の費用対効果の悪さについても……。当時は、しゃにむに仕事するばかりで、まるで客観性はありませんでしたから。

 そんな「独特だなあ」を語るのに欠かせないのが、文学賞のパーティーです。その手を目指したことがある方はご存知かと思いますが、文学賞と名のつくものの数は、とても多いです。小説に限ってみても、ゆうに100は越えます。賞の大半では、授賞式&パーティーが催され、主催者や選考委員が受賞者を(うやうやしくね)お祝いします。新人作家の青田買いや、普段は会えない作家と打ち合わせをする口実にと、編集者も出席いたします。しかし、それだけの数の賞があります。授賞式は週の後半が多く、予定が書きこまれた手帳は、もうパリピさながら。

 しかし、これはお仕事。

「週末はパーティーだぜ。いえーい!」

 とは、残念ながらなりません。むしろ、晴れやかな「歓楽の場」とはうらはらに、勝負を外してはいけない「決戦の場」と呼ぶにふさわしいようでした。

 文学賞のパーティー会場では、作家がいる場所はなんとなく決まっています。大御所は、やっぱりセンター。高級クラブのホステスが囲んでいます。同時に、編集者もぐるりと。それも、編集長以上クラスのベテラン編集者ばかりが並びます。新人編集者や作家と付き合いの浅い編集者などは、なかなか時間をもらえないので、ここぞとばかりに作家に近づこうとします。たまにしか顔を見せない作家がいようものなら、果敢にこうアピールします。

「久しぶりにお目にかかれて嬉しいです〜」

「こんなにあなたの原稿が欲しいんですよ〜」

 でも、どこの出版社も思惑は同じ。話をするために自分の順番を待っていても、どこぞの猛者にブロックされたり、奪われたりするのでした。

 パーティー会場には作家があちこち点在していますから、そういった光景がここかしこで見られました。また、編集者も「身一つ」という点では同じです。ひとりの作家の場所にずっといては、他の作家に挨拶ができない。ぼーっとしていたら、別の編集者に「お持ち帰り」されてしまうということになりかねません。ですから、まず全体を見渡して重要作家がいる場所を把握する。そして、その日のプライオリティーを決めて、会場という弱肉強食の海に飛び込んでいきます。サメのような編集者も泳ぐ中で、僕なんか、すぐに蹴散らかされてしまう雑魚でした。

 そんな時、やはり他の編集者の存在がとてもありがたかった。同じ会社の編集者とは連携を取り動きますが、他社の編集者ともつながりがあると、それが作家に近づく糸口になったり、共通の話題で盛り上げることができました。日頃から、銀座やらゴルフやらで顔を合わせているメンバーです。しょうもない道化役を買って出る人や、その場を仕切って新人編集者を紹介する人など、みな潤滑に場が回るように動いていました。

 こうパーティーの細部を思い出すだけで今でも緊張してしまうほど、本当に神経がすり減るような場でした。一方で、人々が談笑する様子も思い出されるのが不思議です。和服や妙な衣装の作家や、よれよれスーツの編集者や、香水プンプンの銀座ホステスや……。これって、文芸が利益を生まない時代に、時代錯誤も甚だしい。豪華ばかり装って、ホント「無駄だなあ」と感じます。しかし、あの(高度な?)コミュニケーションをこなして得られたものは、原稿だけではなかったかもしれない。神経が極限に近いからこそ、開くことができた視野があったとしたら……。この水曜日の仕事にも活かすことができれば、そう思っています。

 

あっきー(水曜担当)

【プロフィール】 1975年埼玉生れ。

出版社に16年間勤務し漫画や小説などの編集に携わったのち、

なし崩し的にフリーに。

NPO法人「企画のたまご屋さん」では、出版プロデューサーを務める。

https://twitter.com/shiruga_man