フケ専ゲイにも受けるキャラ!?

伏見『吉祥天女』の小夜子は最後、死なないじゃないですか。過去のゲイの取り扱いもそうなんだけれども、社会で認められてない人にある程度スポット当てちゃうと、最後は殺すっていうか、罰することで着地させる物語が多いんですよ。あとがきか何かで誰かが書いてましたけど、小夜子が生き残ったのは、まさにフェミニズムの先駆けですよね。

三浦◆ほんとにそうですね。

吉田◆私、フェミニズムって思ったことないんですけどね。フェミニズム系の学者さんから、論文に使わせてほしいって言われたことがあるんですけど、自分の中ではええーっ?というのがあって。

伏見◆どの辺に違和感があるんですか?

吉田『BANANA FISH』なんかを例に出して、私が少年を主人公にするのは男女の役割がなんたらかんたらでアンチテーゼがどうのこうのって言われたんですけど…。

三浦◆え、難しい(笑)

吉田◆難しいでしょ。そんなつもりなかったんですけど、とか思って。あなたは私ですか?とか(笑)

<会場(笑)>

吉田◆なんか私のことわかったふうなこと言ってるけど…(笑)とかね。そういうのはすごくありましたね。まあ別にいいんですけどね。どう読んでくれても受け手の自由なので。

伏見◆女であることとか、男でないことっていうのが、吉田さんの中にはずーっと流れているテーマじゃないかと思うのですが。

吉田◆男になることはできないので、女の側からしかものが描けないんですけどね。女っていうより、私の目から見た世界ですよね。結局そこに集約してしまうんですけど、たまたま私の目から見た世界とか、たまたま私は女でしたとかいうことではあります。ただ男の人って大変だなと思います。セックスに支配される生活ってつらくね?とかね。

伏見◆今、すごく耳が痛いっていうか…。ゲイなんてむしろストレートの男性以上にセックスに振り回される種族でして。

吉田◆その度合いの問題だと思うんですけど(笑)

伏見◆度合いがちょっとひどすぎてね(笑)ゲイの場合、若いうちは「恋愛→セックス→ジム→恋愛→セックス→ジム…みたいなサイクルで、リスが檻の中でくるくる回ってるみたいに時間が消費されるんですけど、40歳ぐらいになるとハタとそれに疲れて、ああちょっと心療内科に行こうかみたいなことに、少なからずがなるんですよ。

<会場(爆笑)>

伏見◆ともかく、ゲイの人たちは男なんだけれども、「でもほんとうに男なのか?」みたいな不安もないわけでもない。吉田さんの作品がゲイの人に人気があるっていうのは、そういう問題を別の角度からひとつひとつほぐしてくれるところがあるからだと思います。人として否定されないというか、そういう肯定感を与えてくれた。

会場にファンが来ているので聞いてみましょう。どうですか?

Aさん◆バディー感という言葉がすごく腑に落ちました。僕、男っぽい世界が好きなので、オッパイの大きい女の子が出てくる少年まんがとか気持ち悪いんです。結構な年になってから『河よりも長くゆるやかに』を読んで、なんかすごい気持ちよくて、それからはまっちゃったんです。で、なんでだろうと。『河よりも』がBL的とは全然思わなかったんですけど、多分そのバディー感みたいなものに惹かれたんだと思いますし、ゲイから見た憧れもあったと思います。もちろん僕の場合は性的なものもプラスして、そういうバディー的な関係が誰かと作れたらいいなと。ひとつ質問していいですか?

吉田◆はい。

Aさん◆男の趣味、変わりましたか?

吉田◆はい!? 男の趣味ですか? 昔からわりと一貫してると思いますけど。

三浦◆どんなタイプがお好きですか?

吉田◆えーとねえ、すごく若い頃から比べるとちょっとは変わりましたね。若い頃は抑圧的な男が好きでした。

三浦◆へえー! オラオラ系?

吉田◆はい、オラオラ系(笑)。当然のことながら痛い目にさんざん遭いまして。それで、いいやーもう、みたいな感じにはなりました。

Aさん◆僕はわりとガッチリした男性が好きなので、本来、吉田先生の作品のキャラは好みではないんです。で、『海街diary』の最初に「藤井くん」が出てきたときは、ああ吉田先生の世界だなと思ったんです。でもその後に出てきたのが坂下家のお父さんと息子たち。超イケる3人だった(笑)

三浦◆そうか(笑)

吉田◆そっちですか(笑)

Aさん◆すずの選ぶ男が3人の中で一番汗臭そうな風太だっていうのも超イケるぜ!って。これはもしかしたらヌケるかもぐらいな。

<会場(爆笑)>

Aさん◆坂下のお父さん出てこないかなって、毎回楽しみに読んでるんです。

Bさん◆私はゲイだから男の人が好きなんですけど、『カリフォルニア物語』に出てくる女性がさっぱりしていてかっこいいのと、男性が「えげつなくなく」て、すごくセクシーで、悪役も含めてキャラクターがすごく好きでした。

伏見◆それ、ヌケたってこと?

Bさん◆ヌケはしないんですけど(笑)

吉田◆ヌク、ヌケないっていう基準…!?

三浦◆その基準はやめてくださいよ(笑)

吉田◆でもちょっと興味深いです。

伏見◆それがやっぱりセックスに支配されてるってことなんですよ!

三浦◆とらわれすぎですよ(笑)

吉田◆重要な問題ですけどね。セックスファンタジーってのは理屈じゃないんで。

三浦◆それでいったら私、ゴルツィネを見た時、セクシー!って…。

伏見◆三浦さん、ゴルツィネがタイプだったんだ(笑)。あ、前に三浦さん、フケ専の小説?も書いていたもんね。

三浦◆はい(笑)少女まんがの中であんまり見たことないタイプだったから、やばい、ゴルツィネ!と興奮して。最後とか、ゴルツィネにすごい思い入れて涙しちゃったもん。

<会場(笑)>

伏見◆そんな読み方されてるって想像してました?

吉田◆いやいや、思ってなかったです。

三浦◆すみません、ゴルツィネを汚してしまって。

吉田◆いえ、とんでもないです。

 

リアリティーは必要か?

伏見◆三浦さんが、吉田さんの作品の中でとりわけ思い入れがあるのは?

三浦◆やっぱり『BANANA FISH』が一番最初に読んだ作品なので好きですが、えー、でも選べないわー。でも『河よりも長くゆるやかに』は1年に1回くらい絶対読み返します。

伏見◆いいよねー、『河よりも』

三浦◆これを読むと男の子って、女の子がいないとこでこういう会話をほんとにしてるんじゃないかなって思えて、すごく楽しいですよね。あと、なんだろうなあ、全部好きだからなんとも言えない、ほんとに。傑作じゃないものはないし、短編も長編もいいし。

吉田◆そんなことはありましぇん(笑)そんなことはございましぇん(笑)

伏見◆今回『十三夜荘奇談』という短編を読んで、吉田さんはゴキブリまでこんなに大事に思っているのかって(笑)これ、編集部で反対されなかったんですか、ゴキブリの擬人化はないだろう、みたいな。

吉田◆ぶっちゃけてしまうと、私、ほとんど覚えてないんですよ。

伏見◆え? 描いたことを? 内容も?

吉田◆うん。さっきも言いましたが、ネームを描き終えるともうそこで完結してしまうので。

伏見・三浦◆(笑)

伏見◆でも作品によっては読み返すとかって。『BANANA FISH』をたまに読むと…、

吉田◆面白いんですよ。忘れてるから。

<会場(笑)>

吉田◆なんで面白いかっていうと、私がこうなってほしいって思う、その通りになるからです(笑)

<会場(笑)>

吉田◆しょーもない(笑)

三浦◆私、『櫻の園』も大好きなんですけど、吉田さん、女子校出身じゃないですよね。

吉田◆女子校じゃないです。あれは理想の女子校。

三浦◆私、女子校だったんですけど、あんなにリア充感のある女子校見たことないです(笑)まあ、女子校の中でもリア充の人とそうじゃない人がいますけど。

吉田◆え、そうじゃないほうだったの?

三浦◆もちろん。傷をえぐらないでください(笑)それで、友達と「こんな女子校生活してみたいねー」って。

吉田◆私は共学でしたから、こんな女子校あったらいいなって思って。私、何度も言ってますけど、リアルななんとかって描きたいと思ったことは一度もないし、リアルってこともそもそもよくわからない。リアルなことがそんなにいいものだとも思わない(笑)

三浦◆私もそう思います。リアルって結局、その人の目で見て感じたものでしかないわけで、書き手にとっては、リアルさよりも憧れだったり理想みたいなものだったりのほうが大事というか、モチベーションになって、創作するんだと思うんです。それでも、「ああ、こういうことって、自分の生活でも思い当たるな」って読者が共感できるような、痛みや苦しみや喜びやらは作品に当然にじむ。そこではじめて、その作品は読者それぞれにとって、本当にリアルで大事なものになるんだと思います。

吉田◆でもリアルってことにものすごくこだわる人いますよね。これはリアリティーがないとかね、言う人いるでしょ。

三浦◆はい。たとえば男性主人公の小説を書くと、「汗の臭いがしないよねえ(嗤)」って言う男の人がいますね。でもこれ小説だから! もともとページから臭いを放つ設計にはなってないから!

<会場(笑)>

三浦◆汗の臭いはおまえの想像力で補完するものなんだよ、小説ってのは! 電車の中で汗臭い男がいたら絶対いやがるくせに何言ってんだ!(笑)

吉田◆(笑)

三浦◆それぞれにとってのリアルさすべてを拾うことはできませんからね。

吉田◆できないし、する必要もない。

三浦◆ないない。そんなこと言ってたら小説やまんがを描く意味がないですよね。

吉田◆リアルの引き写しはつまらない。

三浦◆ほんと、そうですよね。

(次ページ)