『海街』は機織りするように

伏見『海街』をずいぶん長く描いてるじゃないですか。10年以上描いていらっしゃるけど、物語の時間としてはまだ3年ぐらいですよね?

吉田◆そうですね。

伏見◆3年ぐらいを10年ぐらいで。

吉田◆『ドカベン』みたいですよね。

<会場(笑)>

三浦◆先生、例えが!(笑)

吉田◆春の野球大会を10回くらいやっちゃうみたいな。

伏見◆今回、改めて一気に読んでみたらその凝縮感に驚いた。ものすごくセリフが練れていて、なんか極上の純文学を読んでるみたいな感じ。あと、子育てまんがっていう感じがしたんですよ。今までの作品では主人公とか若い人に、若い吉田さんがシンクロして描いているっていう感じがあったんだけど、『海街diary』はお母さん目線っていうのとも違うんだけど…、

吉田◆やっぱり年をとったからだと思いますよ。描くものが違ってきますから。『BANANA FISH』とかアクション系というのは、例えてみると乱暴な言い方かもしれないけど、大手建設会社の宅地開発みたいな。山を削り、反対派を金で黙らせて、インフラを整備してっていう、なんか大きな都市開発みたいな力技が必要なんですよね。でも『海街diary』は人の暮らしを積み重ねなきゃならないんで、機織りをやるような感じ。

三浦◆ああ、はい!

吉田◆糸を組み合わせて模様を合わせてガッチャン、みたいな。ひと織りひと織りね。そういう感じなんですよね。だからどうしても時間がかかるし。

伏見◆さすがに僕もね、50を過ぎて、最近は若い子との性愛をはさまない関係性が面白いっていうか、自分にとって大事になってきた感じがある。でも難しいんですよ、年下とつきあうのが。こちらは同じ目線で対等だと思っていても、向こうは「ババアが上から目線でからうるせーな」みたいに受け取る。若い世代との付き合い方、関係の作り方は難しい。だけど『海街diary』を読んでいると「こんなふうに気負わず接すれば下の世代の気持ちを掬えるんだ」とか思って、また吉田さんから勉強させていただきました。

吉田◆いえいえ!

伏見『海街diary』は男の子キャラも多いじゃないですか。どの子も丁寧に描かれているっていうか。

吉田◆裏設定じゃないですけど、どういう家庭に育って、お父さんお母さんはどんな職業でっていうのはやりませんか?

三浦◆それは考えますね。

吉田◆それをしないとそのキャラクターの人となりを描けないですから。

三浦◆ただ吉田さんの作品はやっぱり描写が丁寧というか、細かいですよね。

吉田◆そう?

三浦『海街』は特にそう思います。

伏見◆コマも細かい?

三浦◆ああ、たしかに、他の作品よりもコマ数が多くないですか?

吉田◆多いかもしれない。

伏見◆意図的に、ではないんですか?

吉田◆なんとなくなっちゃうの(笑)

伏見◆三浦さんは、そういう世代的なことってどう考えてるの?

三浦◆自分より年下を書くのが難しいですね。

伏見◆経験してることなのに?

三浦◆高校生とか書くのが無理…になってきた。もう、わからないです。だから吉田さんすごいと思う。

吉田◆いや、私もわからないけどね。ただ、普遍的なものってあるじゃないですか。バカさ加減とか。

三浦◆あ、それはそうですね(笑)でもLINEとか新しいものが出てきたじゃないですか。

吉田◆そうですね、コミュニケーションツールがずいぶん変わったので。

三浦◆例えば学校ものを書くとしたらそういうのをどう扱うかって、今すごく難しいとこだと思うんですよ。彼らにとってのコミュニケーションの非常に重要な部分を占めてると思うので、それを書くのか書ないのか、書くとしてどのぐらい書くのか。塩梅が難しいなーという気がして。伏見◆『海街』って難しいですよね。ケータイからスマホみたいな。10年描いてるとツールが変わってきちゃうので。

吉田◆そうですね。

 

少年まんがしか読んでいない?

三浦◆吉田さんは、どういうまんががお好きで読んでこられたんですか?

吉田◆手塚先生とか読んでましたけど、私、ある時期で止まってるんですよ。『あしたのジョー』が真っ白な灰に燃え尽きたところで終わっちゃったの。

三浦◆ずいぶん昔ですよ!(笑)

吉田◆だから『サイボーグ009』とか、そういうことになっちゃうんですよ。記憶の中のまんがは昔のものばっかりで。

三浦『BANANA FISH』の本編の最後のシーンは『あしたのジョー』を意識してらっしゃいますか?

吉田◆もちろん!

三浦◆やっぱりね! そうですよね! 『あしたのジョー』のラストに匹敵するっていうか並び立つ名コマ割りだと、ずーっと思っていて。すばらしい! すばらしすぎると思ったんですけど。

吉田◆あれは『あしたのジョー』です。

三浦◆あー、積年の謎が解けた。

吉田◆基本的に『BANANA FISH』って『カムイ外伝』なんですよ。

三浦◆ああー、なるほど(笑)

吉田◆次から次へと敵が来るっていう。

三浦◆吉田さんの例えはホントすごい。往年の名作かつ男の子向けのまんがばっかりっていうのが面白いです。

 

『河よりも長く~』の続編は無理ですか?

Cさん◆吉田さんも三浦さんも、それぞれの作品にファンがいるじゃないですか。続きを書いてくれっていうオファーが来ると思うんですけど。

吉田◆私は続きは描けないかな。本になった段階でこれはもう完結したものっていう感じです。

三浦◆私は書いてる途中で、これはこの話だけでは納まらないなっていうのがある時に続編を書いてます。

伏見『イヴの眠り』『YASHA』の続編として描く予定だったんですか?

吉田◆そうですね。たまたま納まりきれない作品があって、次のものを考えた時に、タイミングが合えばそういう形で出るけれども、自分の中で完結したものの続きをって言われても出てこないです。

三浦◆だけど、そういうふうに言っていただけるのはすごく嬉しいことですね。

吉田◆ありがたいことだと思います。

三浦◆続きが読みたいと思ってもらえる終わり方ってすごくいいなって思うんですよ。想像の余地がいろいろあるってことじゃないですか。ああかな、こうかなって。そういうふうに書けたのかなと思うとすごく嬉しいですね。

伏見◆じゃあ、『河よりも長く~』とか、続編をって言っても絶対無理ですね。

吉田◆てか、もう覚えてないんだよね。

三浦◆残念すぎます!(笑)

Dさん◆作品が映像化されて、監督が男だった時に違うなーと思うことありますか。

吉田◆ありますよ。でもそれはその人のイメージなのでとやかくは言わない。

三浦◆事前に脚本はお読みになりますか?

吉田◆一応読みますよ。ただ、こっちが何か言うと他人様の想像の翼を断ち切るみたいな気がしちゃわない?

三浦◆そうですね(笑)

吉田◆よく例えで言うのは自分はレストランに野菜を搬入する農家のおばちゃん。うちの野菜はちょっと癖があるけれども、うまく料理してねみたいな、そんなスタンスです。あとは料理人の腕次第なので。

三浦◆男らしい!(笑)

伏見◆三浦さんは、こんなにしやがって!みたいなのはありますか。

三浦◆なんじゃこれはーっていうことはないですね。

吉田◆ちょっと細かいところで、これ違うかなーみたいなところはどうしようもないよね。

三浦◆撮影の事情とかもあるじゃないですか。日が暮れたとか(笑)

吉田◆オトナの事情もあるんですよ。このキャストがいいんだけど、いろんな事情でキャスティングできないとか(笑)

三浦◆今まで監督も脚本も男の人ばっかりだったんですけど、総じてメインの男性ふたりの心と体の距離が近くてびびるんです。あれ? 小説でこんなふうに書いたかな、みたいな(笑)。私がイメージしてたよりも近いんです。だから天然て怖いなって思う。腐女子の妄想を軽々と超えていきやがるぜ。

<会場(笑)>

三浦◆そういうところも、面白いなーと思います。

伏見◆キャスティングは自分の好みの人を指定とかされないんですか。

三浦◆しませんよね?

吉田◆しないです。

三浦◆キャスティングに原作者が口を出す隙間は全くないですね。

伏見◆妄想する側としてはちょっとタイプの俳優を使って…(笑)

三浦◆ホテルの鍵とかチャリって渡したいですよね(笑)ないね~、そんなのは。

 

『海街diary』のラストは見えている

Eさん◆お話は最初にぼんやりとでもラストを決めて描くんですか? それとも何も考えずに描くんですか?

吉田◆両方ありますね。ラストがまず浮かぶのと、なんとなく考えていくうちに決まっていくのと。

Eさん◆作品によって違うんですね。

吉田◆はい。三浦さんはどうですか?

三浦◆同じです。なんとなくこんな感じっていうイメージが見えてる時と、やべーなって見切り発車して、どうなるんだこの話?って思いながら書いてる時と、両方あります。吉田さんの場合、ラストが見えてたのはどれですか?

吉田『BANANA FISH』ですね。

三浦◆あのコマ割りが!?

吉田◆真っ白な灰に燃え尽きるという…。

伏見『海街diary』も見えている?

吉田◆だいたい見えてます。今は。

伏見◆変更されることもやっぱり…。

吉田◆ありますよ。こっちのほうがしっくりくるかなー、みたいな。それはあるでしょ?

三浦◆そうですね、書いていくうちにっていうのはありますね。

吉田◆それは物書きだったらみんなそうだと思います。

三浦◆じゃあ、ちょっと着地がうまくいかなかったなーって作品はありますか?

吉田◆あー、どうだろ、『吉祥天女』とか!?

伏見◆えっ!?

三浦◆そうなんですか? むっちゃすばらしい作品だと思いますけど。

吉田◆うーん…。ちょっと違うほうにいったなーみたいなのはありますね。

三浦◆でもまあ、それも連載の楽しさですよね。

伏見◆三浦さんは書き始めて17年?

三浦◆そうですね。

伏見◆40年まであと23年?

三浦◆もう私、とても無理だと思って(笑)吉田さん、ほんとにほんとにすごすぎる。

伏見◆いつまで書こうっていう感じはあるんですか? 三浦さんは。

三浦◆え? 私ですか? もう今すぐやめたい。

<会場(笑)>

三浦◆もう無理!

伏見◆吉田さんはもう無理、みたいなことはあったんですか?

吉田◆しょっちゅうですよ。

三浦◆だけどさっき、もうするするネームが浮かぶって…(笑)

吉田◆いや、それとはねー、違うっていうかねー。

伏見◆何がつらいんですか?

吉田◆だから机に座ってられないから。机に座ってると、あー、もうめんどくさいな、とかね(笑)

伏見◆テニスしたーい! みたいな?

吉田◆そう!(笑)だめだなー、ホントに(笑)

伏見◆でもやめない理由はやっぱりストーリーをアウトプットしないと…、

吉田◆そうそう、出さないと気持ちが悪い。便秘してるみたいな(笑)

伏見◆ここまで来たら50年はいってほしいですよね(笑)楽しみにしてます。

伏見◆ということで、おふたりに大きな拍手を。ありがとうございました。

吉田・三浦◆ありがとうございました。

<拍手>