「あっきー★らっきー水曜日」その9

アムロスなんかこわくない!

「ポップカルチャーは、30代までよ!」

 こう言ったのは、我らがママの伏見憲明さんです。少し前のことなので、どのような文脈から出た言葉だったかは、忘れました。そんな年齢制限で断ち切られてしまうのは、ポップカルチャーを発信し、旗振る立場のことか? それとも、それらを享受し「キャッキャ!」する立場(僕はこっちね)のことか? 前者のほうがより限られた感性や能力が求められると思いますが、いずれにせよ僕もはや40代。時すでに遅し……。

 40ともなるとアンテナも古び、モスキート音のように、感覚器や脳が反応しなくなる。「それが世の常というもの」という、さらさらっと吐き出された伏見さんの言葉に、僕は少しばかりうろたえます。あれは会社を辞めたばかりの頃ですから、「おっさんが、いつまでも若い子気取りでフラフラしてんなよ」という自戒や、「もうオレのクリエイティビティ(そんなのあった?)は通用しねえ……」という失望の念を抱いたのでした。その一方で、「これからは、あくせくとナニカの最先端に目を凝らさなくてもいいんだ」という安堵の念が浮かんだのも、確かなことです。

 安室奈美恵引退のニュースの機に、これを思い出していました。第一報を聞いた日、僕は世間一般が受けたショックよりも大きめに、この界隈の皆さんと同等くらいに、驚嘆し落胆しました。たまたま営業日の水曜でして、「二丁目がまるでお通夜のよう」というニュースも、嘘ではないように感じられました。

 そもそも、「厚底」でも「細眉」でもない僕(だよね)ですが、安室奈美恵のベスト盤が久しぶりのミリオンを記録した頃から、コンサートにも出かけるようになりました。30代になったアムロちゃんについて、エッセイストの酒井順子氏は、「ここしばらくの彼女が、『見ておかなくてはならないだろう』と思わせる、特別な魅力を放っている」と『この年齢だった!』(集英社文庫)に書いています。僕も、逃してはいけないような一瞬にヒリヒリしたものを感じ、その姿を追い求めたんだと思います。

 それから、自宅でひとり「アムロ飲み」な日々を送ること半月余り。大量のライブDVDを観ているなかで、こんな言葉が出てきました。

「今日のコンサートは全部まぼろしよ」

 そのコンサートでは、ステージと並行して、ファンタジックな世界を旅する少女の映像が流れます。この案内人のような少女と一緒に、ステージを体感していた我々。そんなアンコールも終わって興奮冷めやらぬ場で画面に映し出される、「全部まぼろし」です。当時はこの演出に感慨もなく、「現実に引き戻されちゃうけど、こんな幕引きもありかなー」と思った程度でした。それが、今は違った意味を感じられます。

 ファンと一体になったコンサートも、終わってしまえば何もなかったも同然。全部まぼろし。それは、40歳になるまで走り抜けた活動も、終わってしまえばなかったも同然、ということなのかもしれない。ポップカルチャー(大衆文化)とは、常に現在の一点にのみ照準が合わせられ、ゆえに移ろいゆくことは自明です。だとしたら、安室奈美恵ほどポップカルチャーを体現している存在はないのではないか。すると、じわじわと感動してきます。そして、次の時代を生きている僕らにアムロスなんかないんだ、そう思うんです。

 

あっきー(水曜担当)

【プロフィール】 1975年埼玉生れ。

出版社に16年間勤務し漫画や小説などの編集に携わったのち、

なし崩し的にフリーに。

NPO法人「企画のたまご屋さん」では、出版プロデューサーを務める。

https://twitter.com/shiruga_man