「パヨクのための映画批評」30

楽勝でハリウッド越えの映像国家 

~「太陽の下で-真実の北朝鮮-」(“В лучах солнца”、 2015年、ロシア・ドイツ・チェコ・北朝鮮・ラトビア)

世界を常にあっと言わせ続ける…それはハリウッドでも難しいことですが、今、世界最大規模でどぎついエンタメを提供している国と言えば、北朝鮮。指導者の様子からして只者ではない。朝鮮半島という存在が日本国民としての態度を測るリトマス試験紙と化して既に15年程になりますが、北朝鮮は本物の劇薬。ミサイル撃つんだから! 止めてちょうだい! でも、発射されると、寝言の帝国ツイッターが活気づく。「パヨクは北朝鮮がミサイル撃っても「そうさせてる周辺国が悪い」とか言うww」等、まさにお祭り状態です。ちなみに「パヨクって○○のこと、絶対悪く言わないよね」の語りの形は、ネトウヨの方が面白いこと言ってた時代に出てきたと記憶しているけど、これ痛くなかったらパヨク・リハビリはまだまだね! 「正しさ」の呪いが思考や事実認識に奇妙なブレーキをかけている、というのを、ネトウヨはわざわざ教えてくれていたのよ。最近は何かもうアレですが。

で、北朝鮮に関して思考に妙な細工をして、目の前の「本当」を見えなくさせるあの感じを助長させてくれるのが、時折西洋の国が作る北朝鮮ドキュメンタリー映画よ。マルクス主義の敗北を目にしたパヨクは、そういうのを観て「あっち側にもそれなりの人生と社会があるんだ」とほぼ無意識に安心しようとする。「ヒョンスンの放課後」(2004年)なんて映画、盧武鉉政権時代の韓国でも上映されて、私も観に行って、大いに安心させてもらったものよ。

今回はリハビリ向けに、「そんな中でもそれなりの人生」なんてあんたら西側諸国に住んでるパヨクの幻想よ、と冷水ぶっかけてくれる映画、「太陽の下で」について考えたいと思います。

北朝鮮のピョンヤンに住むある少女の一家を撮影するドキュメンタリーを撮りに来たロシア人の監督さんが、当局が一家や周囲の人々に対し、言動や所作などについて一つ一つ指示を出している様子に気が付くの。「アクション!」の掛け声とともに歩き出したり話し始める人々の姿をこっそり撮り始めて…という映画。

映像がとにかく美しい、と同時に寂しい。がらーんとしている。だだっ広いピョンヤンの広場や、金日成・金正日両名の巨大像の前にぞろぞろやってくる人々のシーンは凄みを感じる。そして像や建物が巨大で立派であるほど、人々の質素な様子がよく見えてくる。

広場で金正恩氏を称える歌に合わせて円舞する青年団体の男女。音楽が止まると、ポカーンとなる。指示を待っているのよ。自由意思を極限まで奪ってしまうと、人々は本当に何も考えなくなるというのをまざまざとスクリーンに映し出すわ。それが何か妙に満ち足りているようにさえ見えてくる。金一族を神格化して宗教国家になってしまったことで、その国体に一体化している限り、大半の人間はぼーっとなって不満なんか持たない。あったとしても、それが体制転換圧力にはなりえない。これは、欧米人には理解しがたいらしい。ロシア=ソ連は少し違う形で終わったようだけど、東欧革命は市民革命だとされているわよね。映画ならば「1984」は言うに及ばず、「マトリックス」「Vフォーヴェンデッタ」「リベリオン」に至るまで、欧米の全体主義ディストピア映画は、ラストを革命か、管理社会の中で圧殺される個人の悲劇で終わらせている。逆に、日本だと「PSYCHO-PASS」みたいのが出て来ちゃう。管理社会が善悪越えて一般人から選択の自由を奪っておいて「まあいいか、こんなもんだ人生」と諦め交じりの「気楽さ」を与えるというディストピアがディストピアにならない世界観は、欧米のメジャー作品としては多分出て来ないでしょう。「PSYCHO-」ではレジスタンスが「悪」ですから。

本作の途中で、動力源が止まっているのか、トロリーバスをみんなで押している早朝のシーンがあるんだけど…生きてるってそういうことなんだとしみじみ思った。みんなで一緒に静かにバスを押してる…その日常性が1ミリも動かないのがピョンヤンの姿。あ、この国まだまだ続くわって思わせる。ラストシーンも印象的よ。自由意思を徹底して持たせないという方向に突っ走った国。でも、この子可哀そう、とか、体制転換を!とかを声高には言わない。それは私達が考えればよいの。考えたところで何もできないんだけど。

本作、ロシアという体制崩壊と移行を経験した国の人が監督しているってのも印象的です。DVDには監督のインタビューが入っていて、これを以て本作がきちんと締めくくられると思います。曰く「自分はソ連の崩壊を見ており、自分の親は全体主義を知っている。北朝鮮という全体主義の国を映画にするのは、自分の家族の歴史を知るため」ですって。何か…あたしそこで感動しちゃった。このヒゲ熊おじさん監督、「自分」を知りたくてカメラかついで地球を半周しちゃったんだわって。

北朝鮮側は本作の上映禁止を求めたそうですが、ロシア政府はそれを拒否したというエピソードも、ロシアという国が、個人の思想の自由を確立している側の国なのだと暗示させていて興味深い。今、世界で最も支持されている指導者、プーチンさん(450人位からなる私のツイッター世界調べ)のロシアは、どういう国になっていくのかしら。多分、「欧米」とは少し違う方向に行くのでしょう。

監督さん、日本の人に言いたいことは?と言われて放った言葉も何だか意味深:「予防接種というのはいつか必ず効き目が切れる時が来る。だから気をつけなさい」ですって。どういう意味にも取れるこの言葉、パヨクという慢性病を押さえるワクチンも、地道に打っとかないとダメだよという訓戒として、受け取らせていただきます。

 

執筆者・竹美

ほぼカムアウト状態の会社員。九州のパヨクな家庭に育ち、パヨク思想に染まっていることに無自覚なまま二十歳を迎え、周囲の同級生が順当に就職活動を開始した頃、全然やる気になれず焦って大学院へ逃亡。それが、「企業=金儲け=巨悪」だと信仰していたためだと自覚したのはその10年後。「思想転向」のリハビリ過程で、「真っ先に悪を告発する紅衛兵」の素養を小学生位のときに発揮して同級生にウザがられていた記憶もフラッシュバック。

このコーナーでは、映画を通じて「私やあなたというパヨク」の滑稽で哀しく、正しくて誤っている物語を発見していきたい。