パヨクのための映画批評 34

多様性の島の抱擁 ~「52hzのラヴソング」

~(”52赫茲我愛你(52Hz, I love you)”、2017年、台湾)

パヨクにとってアジアと言えば、「日本でいてごめんなさい」なアジア贖罪派よね。私も子供の頃から「日本の戦争責任」なんてテーマで自由研究課題(という名の正解ありきの思想教化)を与えられたものです。図書館には「はだしのゲン」。まあそんな小学校でしたし、太平洋戦争期の日本のワルさについて大いに啓発されたものです。私が後々韓国語を学んだことも何か関連している気がします。

台湾と韓国。どちらも日本統治時代を経験し、その後の運命は両地域を分断国家にしてしまいました。「台湾」=「親日」、「韓国」=「反日」という、私達にとって都合よくて単純な色分けで理解しておけばいいのかしら?  今回取り上げる映画は現代の台湾が舞台。「少し苦くて少し甘い」ロマンティックコメディミュージカル映画であり、「パヨ映」初、マスコミ試写会にご招待いただいた映画なのです!

え?どうして政治思想にヤられたオネエの私にこの映画を?

実は私もそう思いました。でも、せっかくなので開けたことの無いドアから恐る恐る入ってみましょうと思ったらそこには…

バレンタインデーの台北。花屋をやってる33歳の独女、小心(シャオシン・「気をつけろ!」の意味)は、車でお花を配達中に、チョコレート配達中の若い男、小安(シャオアン)と接触事故。一緒に配達をすることになる。小安がひそかに思いを寄せる女性蕾蕾(レイレイ)は、10年同居したミュージシャン志望の彼氏大河(ダーハー)と別れようかと悩んでいるが、大河は夜に蕾蕾にプロポーズをしようとしている。一方、ブライダル用品店ではレズビアンのカップル、メイメイとチーチーが台北市主催の合同結婚式イベントに参加しようと衣装合わせをしている。

メインキャスト8名が歌いまくりますよ! 全員上手くて、冒頭の何てこと無い歌にさえ涙が滲みかけました。よかった!私の好みの映画だわ!特にいいなと思ったのは小心のおば(阿姨)役。人生の悲哀を知るおばちゃんの深みのある声と、小心の声が重なる「バラの花を植えたのは誰」という歌、泣きそうだったわ。傷つきたくないからバラのとげをまとって人を遠ざけて来たの、って内容で。本作は、少し幻想的な明るい色調で描かれた台北市をバックに、単に甘ったるい内容ってわけでもなくて、「愛は天気雨みたい、正反対のものが惹かれあう」とか、なかなか歌詞がいいの。

昼ドラオネエ的にはねえ、蕾蕾の昼ドラ的涙がキたわね。ちょっと乱れた長い前髪で表情を隠すの。「この、外れクジ!」と大河に言いたいと思いながらも愛している。大河は甘い歌声と純粋な表情で段々チャーミングに見えてくる。そりゃあ、ほだされますわ…二人の愛はどうなるか。

ところで、監督の魏徳聖さんは、過去には「セデック・バレ」という、日本統治時代に起きた先住民と日本側の衝突事件を撮ってるそうです(残念ながら未見)。「親日台湾」のイメージから思い切り外れる上、何か硬派な映画よね。そんな映画を撮った人が何故こんな軽いラブコメを撮ったのか?というのも疑問だった。確かにパステルカラーで描き出された楽しいミュージカル映画、そこだけを観ても楽しめる。でも、バレンタインデーと結婚式の華やかで楽しい空気の向こう側に、今の台湾社会が取り組んでいる課題、「多様性の抱擁」がうっすら見えてくると、また違った感じがする。

台湾には、漢族の世界の他に「台湾原住民」の世界があります。劇中歌の中に「4本しか弦が無いギター」で「ドとミがあってソが無い」という歌を大河(アミ族出身のスミン(舒米恩))が歌うんだけど、それは、中国独自の楽器「月琴」のこと。また、明らかに漢族ではない容貌の子供がちらほら映る。のみならず、「法的には認められてなくても、二人の結合を祝いたいのよ!」という前向きなレズビアンカップルの片割れ、チーチーを演じる女優さんはフランス人の血を引いている。パンツスーツのレズビアンが西洋的な顔立ちであるというのは、両面取れるけど、「色々な人」が普通に溶け込んでいることが表現されているのです。同じ監督の「海角七号」を本作鑑賞後に観ましたが、日本統治時代、先住民、台湾語の台湾人、北京語の台湾人、全部合わせて台湾なんだという想いが最後に歌で結合する名作よ(主演の男がかわいい上やたら脱ぐよ、皆!)。その先にある本作がパステルカラーの少し夢のような色合いになっているのは納得。同じキャストが何名か出演しています。是非、本作の前に観たい映画。実はギターのことが、伏線のように繋がっているのでご注目を。

台湾社会をえぐった映画の代表作「非情城市」では、3、4種類の中国語が使われていて、漢族内の軋轢が表現されていたのに比べ、本作は、言語に全く焦点が当たっていなかった。そうすることによって、却って、台湾は漢族の世界だけではないんだよ、というのが表現できるのかもしれない。先住民にとっては台湾語も北京語も第2言語なわけですから。

本作、観終わると、「人の幸せを祝福してあげれば自分も皆も気持ちがよくなる」という極めて当たり前のことに気が付く。台湾に行くと感じる「人のよさ」ってそういう感じ方なんだろうか。冷戦終わっても分断や対立は終わらない上、「国民=同一民族(とそれに従う少数民族)」意識の強い東アジアにおいて唯一、台湾は、同性婚の合法化のみならず、多様な背景を持つ国民を多様なままで受け止めようとしているのかもしれない。それは皮肉にも国境の意識を強め、分断を固定する意味もあるんだけれど…本作は私の持っていた「台湾人」の概念をアップデートしました。

※「52Hzのラヴソング」は、12月16日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開です。

 

執筆者・竹美

ほぼカムアウト状態の会社員。九州のパヨクな家庭に育ち、パヨク思想に染まっていることに無自覚なまま二十歳を迎え、周囲の同級生が順当に就職活動を開始した頃、全然やる気になれず焦って大学院へ逃亡。それが、「企業=金儲け=巨悪」だと信仰していたためだと自覚したのはその10年後。「思想転向」のリハビリ過程で、「真っ先に悪を告発する紅衛兵」の素養を小学生位のときに発揮して同級生にウザがられていた記憶もフラッシュバック。

このコーナーでは、映画を通じて「私やあなたというパヨク」の滑稽で哀しく、正しくて誤っている物語を発見していきたい。