「あっきー★らっきー水曜日」その11

オシヨワ編集者のインタビュー

 久しぶりに藤野千夜さんにお会いして、インタビューをさせていただきました。ずっと作品のフォロワーだった僕ですが、最新刊『編集ども集まれ!』(双葉社)が漫画雑誌を発行する出版社が舞台であることや、神保町グルメを堪能する垂涎の内容であることなど、自分の経験や趣味と重なることが多く、読んで「これはっ!」と思いました。作家には創作活動をするための核のようなものが必ずあり、そこをエネルギー源として、さまざまな作品まで栄養が供給されていくはずなんです。藤野さんの場合、その核を直接描くことはないと思っていました。しかし、この作品では、大胆かつ意欲的に、おそらくのその部位に手を伸ばしており、「これはこれはっ!」という衝撃のまま、会いにいったわけでした。

 藤野さんの担当編集者だった当初、ある方との対談のお相手としてご登場いただけないか、打診をしたことがありました。売れっ子で忙しい上に控えめな藤野さんしたから、電話で丁寧に断わられます。しかし、僕は食い下がりました。

「なんとか、藤野さんしかいないんです!」

 根拠もなく言いましたが、撃沈でした。その話、藤野さんも覚えていました。

「〇〇さんと、どんな話をしたらいいのかわからなくて……」

 確かにそうです。テーマも意図もあやふやでしたから、「強硬に熱意を伝えるだけじゃだめだったんだ」と、自らを振り返ります。

「押しの弱い電話でしたね」

ええっ! 認識の差に、びっくりします。自分としては、最低3回はプッシュしたつもりだったのに。電話だったし、滑舌もよくないし、それでうまく気持ちが伝わらなかったんだろうか。

「それはもう、押しの弱いオファーをいただきまして……」

 いったい、どんだけ押しが弱いんだよ、僕……。なので今回、取材を受けていただけたのは奇跡なんです。今日まで「オシヨワ」認定されているとは露知らずにいた僕が、藤野作品を3冊ご紹介します。

 『夏の約束』(講談社文庫)は、芥川賞の受賞作です。インタビューの記事でも、この作品の「ゲイのカップルが普通の恋人同士となにも変わらない」ことが批判された過去について触れていますが、それは、今や「普通のゲイの恋愛小説」の金字塔とも言えるのだと思います。なんとなくですが、吉田修一さんやママの伏見憲明さんの小説作品にも通ずる、ゲイの描き方の源流を感じています。

 この夏、僕の近しい方が相次いで雲の上にいきました。その際、なにか特効薬にならないかと思い、頭に浮かべていた作品が『君のいた日々』(ハルキ文庫)です。男女それぞれの視点から、亡き相手への想いが満ちいくさまが描かれます。「切なさ」の種類はさまざまあるんだと思いますが、これはすべての目盛りがマックスです。誰かを失っても、ここに姿がないだけで、その人が存在する世界はどこかにある、そう信じることができました。

 『ネバーランド』(新潮社)は、二股をかけている男との曖昧な関係を描いた恋愛小説です。別の女の部屋に荷物を置いたまま、主人公と同棲する部屋をピーターパンのネバーランドになぞらえています。複数の男女が出入りしながら、忘年会をしたり、バーベキューしたりして、移ろう季節が美しい。僕がモデル(本当にすみません!)となっている人物が登場するということで、再読しました。それは、若手の編集者だそうです。電話口で、ぼそぼそと喋る様子が書かれています。……ああ、やっぱり押しが弱いみたいす。

 

あっきー(水曜担当)

【プロフィール】 1975年埼玉生れ。
出版社に16年間勤務し漫画や小説などの編集に携わったのち、
なし崩し的にフリーに。
NPO法人「企画のたまご屋さん」では、出版プロデューサーを務める。

https://twitter.com/shiruga_man