木曜の腐女子 36

ラブホテルの清掃のアルバイトをするようになって3ヶ月が経ちました。まるで私の方が東南アジアに出稼ぎに来ているのではないかという錯覚を覚えるような環境にも慣れ、日々少しずつ仕事がはやくできるようになり、外国人の先輩たちとのコミュニケーションも取りやすくなってきて、しめしめと思っていました。

ただひとつ引っかかるのは、掃除は主に2人でペアになってやるのですが、2人きりの時に結構な確率で「ここは人間関係が難しい。ズルい人が多くて、裏では皆陰口ばかり言っている」というような愚痴を言う人が多いということです。ズルい人が多いと愚痴を言うということは、自分はズルくないと自認しているということではないかと思うのですが、それなら多くの人がそう言うにもかかわらず、それほどズルい人ばかりというのも不思議な気がしてしまいます。

しかし確かに悪口や陰口は皆しょっちゅう言っていて、そのくせ面と向かうとおおかたが仲良さげに振る舞っているのです。なんとなく外国人たちはもっとストレートに好き嫌いを表すのではないかと思っていたので、少し意外でした。

大抵の悪口は仕事に関することです。あの人はいつもサボっているとか、面倒な仕事を避けるとか、大口を叩くとか……。しかし私にはその陰口や悪口が殆どピンときません。私からしてみれば、大抵皆真面目にやっているように見えるし、事実私よりよっぽど仕事が早く綺麗なのです。あれで文句を言われるなら、私など裏でどんなことを言われているかわかったものではありません。

この仕事は黙々と掃除さえしていればいいと思っていたのですがどうやらそれだけではダメで、同僚とのコミュニケーションも大事なようだと知り、自分の立場を楽にする為にも皆と仲良くすべしと、なるだけ元気に愛想よく振る舞い、面倒くさい日本語の書類や手紙なども、頼まれれば貴重な休憩時間を犠牲にして読んで説明するというようなことをしてきました。

中でも頻繁に私に手紙や通知を読んでくれとか、代わりに書類に記入してくれと言ってくるのが、私と同年代ですがなかなか不良じみた、いかにも奔放な感じの古株の女性です。声も大きく誰に対しても強気な態度で、この人を味方につけておいた方がいいだろうなあという姑息な計算も働いて、なんでも気安く引き受けていました。

すると彼女の方でも何かと私に親切にしてくれるようになってきました。仕事を教えてくれたり、おやつを分けてくれたり、冗談を言ってきたりします。気性の荒い人ですが、日本人にはなかなかない逞しさと、どこか憎めないような愛嬌もあり、話していて楽しく、私も好意を持つようになりました。

ところが、先日バイト帰りに日本人の先輩2人とお茶をした時に、「あなた最近彼女と仲いいみたいだけど、気を許さない方がいいわよ」と言われたのです。寧ろ2人とも彼女とは親しげな雰囲気だったので驚きましたが、なんでも彼女には悪魔的なところがあって、どんな目にあわされるかわかったものではないと言うのです。どうやら先輩たちも彼女から手痛い目にあわされた経験がある様子です。うっかりフェイスブックなどSNSのアカウントを教えたりしたら、あなたの家族や友達とまで繋がってくるから恐ろしいことになると聞き、気の小さい私は震え上がりました。

日本人の先輩たちも無闇に私を脅かしているわけではなく、普段からよくしてくれている人たちだし、親切心から言ってくれていると思うのです。2人とも世間の荒波を乗り越えてきた感じの経験豊富な先輩たちで、職場のことはもちろん、私より余程世間のことも知っているでしょう。とはいえ私もいい大人なのだし、忠告は心に留めつつも、人とのつきあいは自分で判断してやっていきたいという思いと、しかしわざわざ危険に近寄りたくないという気持ちもあり、どうすりゃいいのと困ってしまいます。

こんな小さな職場でも、世の中って、人づきあいって、仕事って大変だなあと今更ながらに感じている日々……。そんな私にとっていまや二丁目のお店はホッと寛げる場所です。世間では怖いと思われているやもしれぬ伏見大ママだって聖母のようなものです。初めて来店されるお客様には、ドアを開けて入ってくるのに勇気がいったとおっしゃる方も多いですが、心配ご無用、どうぞお気軽に安心しておいでください。

 

真紀ママ(A Day In The Life 木曜担当) 

twitter/@mm_elaine

一男一女を持つノンケの主婦。にして重度の腐女子で、こよなくボーイズラブ作品を愛好している。性格はおおらかで、ドジっ子なキャラが、ゲイのお客様にも、ノンケのお客様にも大いに愛されている。声優の緑川光の大ファン。彼の追っかけで、週末は神出鬼没!
高知出身。真紀ママの営業は、築地で働く旦那が仕入れて来る海鮮丼が名物!