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パヨクのための映画批評 53

逆走ババァが暴くダメ男たちの性根 「エル」
(”ELLE”、2015年、フランス・ベルギー・ドイツ)

 

80年代B級映画の歴史に残る名作「ロボコップ」を撮ったポール・バーホーベン監督の映画は、どうも物足りなく感じてました。何がいけないのかな…と考えると、昼ドラが足りないのが私的には問題なんでしょうね。未見の「ショーガール」はオネエが喜ぶ映画だとは聞いているけれど、私にはどうも…と敬遠してます。そこへ来て、昨年話題になった「エル」を観てみたんだけど、これが面白い。今回は、イザベル・ユペール様の迫力ババァぶりが全てをかっさらい、バーホーベン監督の「物足りなさ」を補って余りある仕上がりでした。もしかすると「人の心なんて結局分かんねえんだよ」という監督さんの誠実さなのかもしれないとさえ思う。ゲイ的には、色んな年代のフランス男性の裸体や尻のチラ見せが豊富よ。

本作は、30分位見た時点で真面目に見ちゃ駄目なんだと悟った。映画としては、途中からお話の焦点があっちこっちぶれる。映画を真面目に見てた年齢の頃(ああそれももう18年位前か)なら、腹立ったかもしれないけど、もう40じゃん私。大女優のその場その場の暴走を楽しむ映画なんだなって頭切り替えた。そういう映画…ジャンル「ババァ大暴走系」という、「世界対あたし大戦」のもう一つの変奏形として、本作は「シリアル・ママ」級の名作です。

主人公ミシェルは、ゲーム会社の経営者として成功した女性で、会社では意地悪修道院長のように振る舞い、若い男性社員から反発されたりする。でも冒頭から、黒ずくめの覆面男に暴行される(ひどい!)。だが彼女は訳あって警察嫌いなので通報もせず、病院で治療を受けて何も無かったかのように振る舞う。友達との会食の席で「ちょっと言いにくいんだけど…この前ね、レイプされたの」と平然と言ってのけるミシェル。ドン引きするお友達。ぽっかーん。「この女には心があるのか」なーんて、「黒い家」全盛な90年代ならそこにフォーカスが当たったでしょうね。

この場面だけじゃなく、ミシェルの行動は全般的に不可解。レイプ事件の直後、散らかった部屋を平然と片づけるミシェル…もちろん、平気なのではないんだよ。でも、犯人を捜そうとはするものの、じゃあ映画の焦点が犯人探しに当たってるかって言ったら違う。また、ほとんど顔に表情を出さないミシェルの狂気を描く映画とも言えない。幼少期に凄惨な殺人事件に協力したのではと警察やマスコミに疑われたという壮絶な過去が途中で説明されるけれど…その事件の顛末が、彼女から「まともだと思われたい」という慎みを拭い去り、「どうせ人は好きなこと言うんだから、自分に正直に生きるべき」という強い人間にしてしまったのかもしれないが、それさえも見る人の解釈次第。

その事件のこともあり、彼女と母親の関係は非常にこじれており、母と娘の確執という意味では平行線をたどる二人。だが結局、互いを世界対アタシ大戦のスパーリングの相手として必要としているのよね。

元夫の若い彼女(ヨガの先生だよ!)が気に食わず、自宅のホムパに招いておきながら、彼女用の料理に爪楊枝入れちまう鬼婆ミシェル。向かい側に住んでる既婚男に興味を持ち、そのホムパで露骨に誘うミシェル…皆、冒頭のレイプシーンのこと忘れちゃだめよ…どうなってるんだよ。更には友達の夫と不倫してても「成り行きでそうなったのよ。セックスしたかったの」と平然としてる。最近はしつこく求めてくる彼が疎ましいので、「もうあなたとは寝たくないんだけど、今までのこともあるから、まあいっか。あ、今日最後だかんね、あーふんふんふん」とばかりにマグロ対応をするミシェル。

社内で下劣なコラ動画を流した犯人(彼女を慕う若い男子社員)を見つけると、「ペニスを見せて」と唐突に要求(おい!)。動揺する彼に対し「ユダヤ人かと思ってたわ」というセリフを投げつけ、彼が仮性であることを観客に暴露、尚且つレイプの際に相手のペニスが割礼を受けていたのをしかと見ていたという凄腕ミシェル。もー訳分からない。

本作、出てくる男性の大半にあんまり共感できないように作ってある。ミシェルの父にしても最後の行動の原因ははっきりしないし、ミシェル母の若い恋人(ハンサムひげ♥+全裸も晒す)もあんまり気の利かない普通の男。

ミシェルの一人息子はハンサムでいいやつだがダメ男。冒頭で遂に結婚するとウキウキしてる彼、「大麻売りが定職について父親になるなんてねえ」と感慨深げに母たちに言われる。なのに「会社で、家から1時間もかかるところで働けと言われたので、仕事辞めてやったら妻に家から追い出されたので、ムカついて子供連れて出てきた」というクソバカぶりを発揮⇒ミシェル「あの娘の肩を持つわけじゃねえが、てめえの責任考えろ!子供返してこいやぁ!誘拐だぞ!」と激怒。

バーホーベン監督は、90年代初頭に撮ったセクシーサスペンス(笑)の代表作「氷の微笑」でも、よく考えなくても、性衝動をコントロールできない情けない男性を映し出してた。シャロン・ストーン姐さんのノーパン接待攻撃でトチ狂って、素肌にVネックセーターでクラブに出現したマイケル・ダグラスさん(最近毎週末やらかしてること考えたら私は彼を笑えない)は、80年代末から一連のセクシーサスペンス映画で、グレン・クローズ(「危険な情事」)、デミ・ムーア(「ディスクロージャー」)、シャロン・ストーン(「氷の微笑」)の3名にこっぴどい目に遭っています。

時代なんだろうな、と思うのは、上記の「マイケル兄貴、ヤられる」3部作では「悪いのは女、男は被害者」という描き方に始終しているのに、2015年の「エル」では、男性達がそれぞれアホで身勝手なので、もはやお笑いのニュアンスが生まれている。イザベル・ユペール様本人も「この映画は女性の自立を描いている」とまで語っているらしい。あんた…。ラストシーン、「今まで何だったんだよ」と唖然。やや説明不足の本作に説得力を与えた逆走ババァのイザベル・ユペール様の背中には、明るい陽射しが降り注いでいた。

本作に出会えてよかったわ。ようやく精神に落ち着きが戻ってきた今、次は、セックス依存症の男性を描いた「恥さらし」という意味の題名を持つ映画を観て、自省しようかなと思います。

 

執筆者・竹美

ほぼカムアウト状態の会社員。九州のパヨクな家庭に育ち、パヨク思想に染まっていることに無自覚なまま二十歳を迎え、周囲の同級生が順当に就職活動を開始した頃、全然やる気になれず焦って大学院へ逃亡。それが、「企業=金儲け=巨悪」だと信仰していたためだと自覚したのはその10年後。「思想転向」のリハビリ過程で、「真っ先に悪を告発する紅衛兵」の素養を小学生位のときに発揮して同級生にウザがられていた記憶もフラッシュバック。

このコーナーでは、映画を通じて「私やあなたというパヨク」の滑稽で哀しく、正しくて誤っている物語を発見していきたい。