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「あっきー★らっきー水曜日」その17

おい、そこのクラゲ!

 ここ何年か、夏休みなどを利用して、日本海側を旅行しています。親の実家がともに東北にあり、僕が生まれた地は秋田県。子どもの頃から訪れているのも男鹿半島でして、「オレ、帰ってきたかもー!」といった気分になれます。と同時にセットで立ち上がるフレーズが、これ。

「窓の右手に日本海〜」  

 八代亜紀の歌ですけど、どっかで刷り込まれたこの歌詞は、灰色の海原を見るとオートマティックに再生されます。当時、なに歌っているか分からなかった(まあ今も)けれど、「太平洋と真反対、晴れてない、そしてうら悲しい」という海があり、そこでオトナはウットリするものなんだ。そう解釈していました。ここにきてようやく、その境地を少し、実感できるようになったのかもしれません。

 そんな日本海ですが、富山、能登、豊岡などの最近見てきた風景は、鮮やかなシーンでは分類されていない。思い出そうとしても、なんだかグラデーションで、どこがどこだかはっきりしません(バカか?)。でも、しっとりとした色は脳に染みついておりまして、それが妙に心地いい。リピートしたいと思うんです。

 この夏に行ったのは、山形県です。ぼやっとした海岸線をドライブしていて、今回は「あれ、見たことある」と、記憶に眠る景色と一致しました。地図を開いてみつけた地名が、鼠ヶ関。ここ、高校生の時に来ていました。

 山形県で国体が開催された年、僕はヨット競技の埼玉県代表でした。鼠ヶ関にはマリーナがあり、大会中に滞在していたんです。でも、海なし県に弱小チームが編成され、強引に出場させられたというもの。僕らはレースに勝つことなど優先順位の最後でして、ここぞとばかりに土地のものを食べて飲んでという時間でした。国体の会場は、開催県あげてのお祭りなんですね。そんな彼方にあったあの喧噪の記憶もまた、うら悲しくあります。

 日本の海沿いには、点々と水族館があります。他に見るものがない場合に行くべきが水族館ですが、日本海側の水族館では、沖縄の美ら海水族館のような派手な衣装の魚には会えません。古い反物のごとき配色の魚ばかり。今回の旅でも、鶴岡市立加茂水族館に行きました。ここもまた、色のない生物代表(だって半透明だし)のクラゲの展示が有名とのことでした。さまざまなクラゲを一巡して、その感想はというと、

「どれもほぼ一緒」

というものでした。いるのかいないのか分かんないものをずーっと見て回るわけで、途中からは種類を識別することを放棄。だってもう、こっちも透明化して消えちゃいそう(笑) 幻想的なライトアップで映えさせる演出もありましたが、それがまた儚くって。

 しかし、写真のクラゲは異彩を放っていました。この存在に対して「美しい」という評価が浮かびますが、その対極にも見えます。そのヨット部時代、クラゲに刺されたことがありますが、真っ赤なミミズ腫れになりました。毒のあるひだをヒラヒラさせて漂う。天地左右なく、自由に。ただそれだけ。僕は、問いかけてみます。

「おい、そこのクラゲ! 前世で悪いことしたのか? それとも、いいことしたからこうなったのか?」  

 これ、どっちでしょう。こんな疑問を持つ僕こそ、以前に何かしでかしてるんでしょうか(笑)

 ついでにですが、鼠ヶ関で思い出したのが、花村萬月の『風転』という作品。父親を殺してしまった少年が、ヤクザを廃業した男とオートバイで日本中を疾走します。「ねずみがせき」じゃなくて「ねずがせき」。彼らが訪れたこの地では、そんな会話が交わされました。灰色の逃避行は、その色を濃くするように続いていく。おお、なんてもの悲しい!!

 

あっきー(水曜担当)

【プロフィール】 1975年埼玉生れ。
出版社に16年間勤務し漫画や小説などの編集に携わったのち、
なし崩し的にフリーに。
NPO法人「企画のたまご屋さん」では、出版プロデューサーを務める。

twitter / @akkyluckybar