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「あっきー★らっきー水曜日」その18

ヤバ過ぎ、二丁目劇場

 叶姉妹と、お仕事したことがあります。正確には、妹の美香さんと。もちろんですが、グッドルッキングな一味ではないです。漫画編集者時代にやったグラビアで、水着モデルを100人集め、洋館を貸切って撮影をしました。その館に足を踏み入れると、少女がそこかしこに人形のように寝そべって、乳を出してる(水着ですけど)という企画。さらに少女達には、女主人がいるという設定でした。一番奥の扉を開けると、彼女がゴージャスな椅子に鎮座している。その役こそ、叶美香さんです。グラビア特集の扉写真には、美香さんが堂々と鎮座。ページをめくると、おっぱいがいっぱい。今思うと、なかなかの奇天烈かつ興奮の「美香おっぱいの館」というものでした。

「ちょちょっと!女の水着に興味ないくせにっ」

 と、ツッコミが聞こえます。ねーよん(笑)その通りなのですが、現場でエロエロ光線を飛ばす男性スタッフなどいません。当然のごとく、おっぱいの館のイメージを作ろうと誰もが自分の役割に徹し、一丸となって仕事をしていました。われわれも、格調の高い室内に合わせるように、衣装の色や撮影の場所、モデルの組み合わせなどを考えます。また、次から次へとモデルの着替えやメイクをしなければいけません。時間が決まっている中での撮影ですから、控室はもう合宿所にある食堂の調理場のよう(どんなだよ?)でした。

 で、なぜか美香さん担当になった僕。衣装は水着ではなかったのですが、薄い布切れのようなものをご本人が用意してくださりました。いざそれを着用すると、もう匂い立つ妖艶さ。あと、髪がびっくりするくらい赤かった。撮影では、姿見を目の前に置き、きっちりとポーズをキメてくださったことを覚えています。さらに印象に残っているのは、上がった写真チェックの厳しさ。カメラマンと僕が選んだ「これって、どれも同じだよね?」という写真に対しても、きっちりNGを出されました。読者プレゼント用の色紙には「美は一日にしてならず」という言葉を記し、こう書き並べてみても、めちゃくちゃ濃ゆい撮影でした。

 なぜ、これを思い出したかといいますと、八方不美人を見たからです。作詞家の及川眠子さんと作曲家の中崎英也のプロデュースのもとでデビューする、ディーヴァユニットです。先立って発信された動画では、エスムラルダさん、ドリアン・ロロブリジーダさん、ちあきホイみさんが、それぞれ自己紹介をされています。ゆったりと、低めの声で、微かな笑みを浮かべながら。

「みなさま、こんにちは。八方不美人です。もう一度、八方不美人です」

 なんか僕、魔法にかけられようとしてるのか? あれが、ドラァグクイーンのデフォルトの喋り方なんでしょうか? 不勉強で恐縮なのですが、あの間を持たせた声色に、ゾクゾクっとしました。そう、あれは「美香おっぱいの館」に引き込む世界観と似ていると思ったんです。

 美香さんが誘ったように、八方不美人を観た人も、不思議でヤバい場所にかどわかされてしまう。その先は、日常や秩序が転倒している場所。おっぱいがいっぱいだったように、毎夜、艶やかに人々が酒や会話に乱れ咲いている、新宿2丁目。

 これらに共通するものを(あえていえば)異形の相、その先の劇場的空間。そこが魅力的であるのは、箱庭としての場所だったり、集まる人だったり、時流や才能、さらには偏見やもっとアタリの強いものがあるからだと思います。でもね、みんな楽しいんだもんね! アデイからはさらに、中村うさぎさん&こうきさんの絵本『ぼくは、かいぶつになりたくないのに』も、間もなく発売されます。面白いものがどんどん生まれる二丁目劇場。ここほど、刺激的な場所はありません。まだ体験されていない方、その扉を開ければすぐですよ!

 

 

あっきー(水曜担当)

【プロフィール】 1975年埼玉生れ。
出版社に16年間勤務し漫画や小説などの編集に携わったのち、
なし崩し的にフリーに。
NPO法人「企画のたまご屋さん」では、出版プロデューサーを務める。

twitter / @akkyluckybar