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沢田アキヒコの偏愛インタビュー 第3回

写真家・菅野ぱんだ「朽ちを撮る」

福島の空に、ドローンを飛ばしている写真家がいる。菅野ぱんだ、福島県伊達市に生まれた。はるか上から見下ろした写真からは、整備された敷地に、小さな点々が並んでいるのが見える。これは、福島第一原発の事故によって、生まれた風景だ。

 

■福島の上空から

「フレキシブルコンテナバッグ(フレコンバッグ)といいます。最初に見たときは、衝撃を受けました。黒いつぶつぶが、整然と延々と、並べられていて。それは、幾何学的にも感じました」

 このフレコンバッグに詰められたものは、汚染された草木や土。あの事故から何年もかけて、作り出された。福島県内のあるバッグは、2000万袋という報道がある。中間貯蔵施設、仮置き場、仮仮置き場など、すべての保管場所を含めると、その数はさらに増えるともいわれる。

「これは、福島のいろいろなところにあるんですが、民家の庭にも置かれているんです。特に福島市などは市の条例で、各家で保管するよう決められているんですね。ドローンを飛ばすと、緑のシートがかけられているのが見えるんです」

 事故に関連する場所で、撮影をおこなう。汚染された地域は、管理されていることもある。身体への影響など、リスクもあるのではないだろうか。

「ドローンを飛ばしていけないエリアではないんです。でも見つかると、怒られますよ。『作業員に落下したら困るから、やめて』という言い方をされます。線量は場所にもよるんですが、測ってもそれほど高くはないですね。私が撮影しているところは、バッグに入れられていますので」

 これらの福島の写真は、2017年に銀座のニコンサロンで『Planet Fukushima』として展示会が催された。そして、年間で最も優れた作品展として、伊奈信男賞を受賞することになる。

「受賞すると思わなかったので、驚きました。いただくことができて、とても心強いです。『Planet Fukushima』では、季節をばらばらに配置しました。写真の縦横の大きさも、時系列もばらばら。福島に帰ると、人によって時間の進み方がまったく違うことを感じます。地震が起きて、時間に逆行するように過ごしている人もいれば、震災をなかったものとして考えている人もいます。特に子どもは、時間が過ぎるのがとても早いですね」

■時間というキーワード

「時間を強く意識したきっかけは、トイレットペーパーなんです。取材旅行に行く前に、ここに私がいなかったら、トイレットペーパーの形は同じままなんだと思いました。このトイレの時間は、止まっているんだと。私の写真のテーマは、時間です。定点観測をして、朽ちていくことを写したい。人が老いていくことや、壁にヒビが入ることなど、いろいろな朽ちがありますよね。それは、美しいと思います」

『Planet Fukushima』の写真でも、フレコンバッグが緑の木々に囲まれている季節もあれば、その葉が紅葉しているものあった。その移ろいは、まさしく時間。四季がある風景は、ここが紛れもない日本であることを示している。さらに、雪に覆われている写真からは、寒い東北の地だと知る。

「例えば、会津の鶴ヶ城を春と冬で撮っています。春夏秋冬の変化は、変わらないものですよね。それは、あの日とは関係なく。フレコンバッグは放射能ですから、こらから先もずっと、あり続けるものです。今回の写真では、時間という定点観測に加えて、もう一つの次元を与えたいと思いました。それが、ドローンです。上からの視点によって、空間の広がりを表現しました」

 これまでも、故郷の写真を撮っていた。2003年に出版された、『1/41 同級生を巡る旅』。小学校のクラスメイト41名を探し、35歳になった姿を撮影する旅が収められている。当然ながら、同じ教室から続く時間は単一ではない。福島との繋がりを求める文章の力にも、圧倒される。

「あの本も、定点観測ですね。当時は文章を書きましたけど、今思うと恥ずかしいです。私は、書くことよりも、身体を動かして仕事をしているほうが、向いているみたいですので」

■動物園で人間に向かう

 震災にまつわる撮影をしているが、報道写真に仕立てるつもりはないらしい。多くの俳優やアーティストのポートレイトも手掛け、独自に世界を追求している。また、動物が大好きで、その名前の通り、パンダだけを集めた写真集もある。近作の『The Circle』でも、動物園で撮影をおこなった。

「タイトルは、サマセット・モームの戯曲『The Circle』に由来しています。円や循環という意味が、この写真集に合っていると思いました。人間がいて、物理的な仕切りの檻があって、非人間の動物がいる。この視点に立って、撮影をしています。特に、動物の檻の前に立っている人間に魅了されるんですね。子どもだったり、おじいさんだったり、中年のおっさんだったり。同じ場所で、これも時間によって変化していくので、やはり定点観測です」

 商業雑誌などの仕事は、これまでよりセーブするようになったという。震災が起きてからは、東京と福島を毎週のように往復しながら、撮影をする生活を続けている。これから先は、どんな姿を定点観測して、朽ちていく姿を写真に収めるのだろうか。

「撮りたいものは、ありますよ。これはまだ、言えないんですけどね。でもなんで、自分の生まれた福島なんだろう? 不思議に思います。でも気がつくとまた、カメラを向けているんです」

(取材・文/沢田アキヒコ)

 

【プロフィール】
菅野ぱんだ(かんのぱんだ)
福島生まれ、Canon写真新世紀「荒木経惟賞」受賞(第13回)、伊奈信男賞受賞(第42回)、主な写真集に『The Circle』(自費出版)、『南米旅行』、『パンダちゃん』(以上リトリモア刊)、『1/41同級生を巡る旅』(情報センター出版局刊)などがある。
http://www.panda-kanno.com

 

『1/41同級生を巡る旅』
(情報センター出版局刊)1400円(税別)

『The Circle』
(https://pandakanno.buyshop.jp)3200円(税別)