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『新宿二丁目』刊行記念、対談!

「伝統的なゲイバーが絶滅危惧種になった」後編

らくさん(ISLANDS)✖ 伏見憲明(A Day In The Life)

 

伏見憲明著『新宿二丁目』(新潮新書)の刊行を前に行われたゲイバーの”ママ対談”。ゲイバーは儲かるのか !? バーのコミュニケーションの困難さ! 二丁目の未来は? 大反響の対談の後編をお楽しみください。
(2019.4.13 A Day In The Life にて)
前編は→こちら

 

・居抜きか、造作権付きか、中間搾取はあるか

 

伏見:ISLANDSさんはこれまで営業してきて辛い経験とかありましたか?

 

らく:うちが二丁目でやっていたのが丸6年だったんですよ。それで2001年に今の三丁目の要通り近くに移ったんです。なにが精神的にストレスだったかというと、やっぱり、高額な家賃でしたね。今は2、30万円くらいが二丁目の相場だと思うんですけど、当時はその2倍近い家賃を払っていました。働いても働いてもお金があんまり残らないっていうのは家賃が原因。だから、二丁目で6年やって3回目の更新をするかしないかっていうときにパートナーと話し合って、もうちょっと家賃の安いところに移ることにしました。それで造作権付きの物件に入ったんです。最初はお金がかかるんだけど、長い目で見ると家賃が安いんですよね。

 

伏見:最初のところは居抜き(飲食店などの営業用に設備や内装が付帯した状態で売買や賃貸を行う物件のこと)だったの?

 

らく:居抜きでした。それに、物件の又貸しが間に2人くらいかんでいたから家賃が高くなっていたんですよ。

 

伏見:2人も入ってたの!? それはすごいですね…。まあ、あそこは場所も良かったもんね。

 

らく:場所も良かったですし、始めた時は勉強不足だったからお店の大きさもこんなものかみたいな感じで決めたんです。

 

伏見:最初の店ってカウンターだけでそんなに広くなかったよね。あそこ、トイレが和式だったのは、僕みたいなデブ客を来づらくするためだったんですか?

 

(オーディエンスの笑い声)

 

らく:違います!(笑)

 

伏見:デブってすぐに被害妄想的に考えてしまうのよ。
でも移転できるってことは、それなりには利益も残っていたんですよね。

 

らく:いやいや(笑)。

ちょっとかっこいい言い方をすると、又貸しの間に入っている人たちって二丁目で昔からやってきたママさんだったりして、そういう、ベテランが新しくお店を始める若い人たちからお金を取っているっていう仕組みが好きではなかったんです。だから、三丁目を選んで移転したっていうのもありますね。未だに二丁目では中間搾取がまかり通ってますけど、そういうことは本来は違法ですからね。

 

伏見:僕は今、又貸しのママたちの側に行こうか迷っているんだけど(笑)。

 

らく:でも最近はそういうことをしているとテナントが入らなくなって逆に家賃が安くなっちゃうから、間に入っても家賃に1、2万円上乗せくらいの物件が増えてるみたいです。だからあまりうま味はない。あと、古いママさんたちは高齢になってきているので今まさに売りに走っていますね。

 

伏見:そういう裏情報も持っているから、らくちゃんって侮れないのよ!

それで、ISLANDSさんは三丁目に移転してお客さんが減る心配はなかったんですか?

 

らく:ありましたね。二丁目の中で移転しても業績が悪くなるお店を山のように見ていましたし。お客さんの中には「その場所にある店だから来る」って人もいます。

 

伏見:そうですよね。ママやスタッフだけじゃなくて、場所や空間が客を呼ぶっていうのがある。僕も、前にメゾフォルテを借りてやっていたときは、サロンっぽくてみんなで賑やかに話せる感じだったんですよ。そういう空間は理屈っぽい人が集まるみたいで、僕に合致したんだけど、ここ、アデイはそういうコンセプトには全然合わない。カウンターだと客と近くすぎて、僕が中に入ると座っている人たちが黙っちゃうんだよね。伏見のキャラや年齢だと、若い人相手だと学校の先生と生徒みたいな感じになってしまうの(汗)。だから、僕がいない方が店の雰囲気はいいんですよ。

 

らく:それで最近は出勤を少なめにしてるの?

 

伏見:僕がお店に来てお客が来るなら毎日でも来るけど、むしろ客減らしになるからあまり出勤していない(笑)。このお店も「エフメゾ」のときと同じように「コミュニケーションの空間」にしようとして、ボックス席も作ったんですよ。でも空間の配置や広さなんかでやっぱり何かが違うんですよね。

そういう意味で、ISLANDSさん自身はどういうコンセプトなんですか?

 

らく:三丁目に移ってから広さが二丁目のときの約二倍になったんですよ。もともとは小さいお店だったからカラオケも無くて、個人で来るお客さんが多かったんです。でも、三丁目に移ってお店が広くなったし、まずカラオケを導入した。そうしたらお客さんがグループが来るようになったり、サークル活動後のお客さんを10人とかでも受け入れられるようになったんです。あとは、三丁目っていう立地もあってお客さんが二丁目とはしごをしづらくなった。そうすると滞在時間が長くなって、結果的に客単価が上がったんです。こういう変化もあったので、それに合わせた接客に変えていきました。

 

伏見:逆に、最初のお店のときはなんでカラオケを入れなかったの?

 

らく:小さくてカウンタースタイルのお店だったので、「みんなで和気あいあいとお話ししましょう」っていうコンセプトだったからですね。カラオケの機械もJASRACに払う分も含め月に6、7万円くらい掛かりますし。そうすると、アルバイト1人分くらいはカラオケに稼いでもらわないといけないので。

 

伏見:うちもカラオケ入れようかなとか考えることもあるんですよ。普通のゲイバーってカラオケとか、昔ほどではないけれど性愛が中心じゃないですか。だから、メンヘラ的な部分が一見見えづらい。アデイってメンヘラ率が高いって言われているんですが(笑)、実際はとくにうちにその傾向が強いわけではなく、カラオケや性愛が中心のお店だとお客さんの内面が見えにくいってだけのことだと思うのね。

 

・「意味のないこと」をどれだけ話せるか

 

伏見:アデイみたいにそれぞれの価値観に触れるような話をすると、やっぱり内面が露わになってしまうこともあるし、政治的にも難しくなる…。去年もね、森林火災みたいな事件がありましたけど(汗)、「価値」の問題に関わってしまうとそういう厄介を招きかねない。

ここがうちとISLANDSさんでまったく違っている部分で、面白いところだと思うんですよ。僕はアデイという場が何か価値を生み出す場でありたいと思っているんだけど、一般的にはそれって飲食店としてやってはいけないことじゃないですか。お酒の場で政治と宗教の話はしちゃいけないって言うけれど、リラックスを求めてくる場としてあれは真実だと思う。一方アデイはまた違う方向でやろうとしているんだけど、でも、価値観の違いを交通整理するのは本当に大変! こっちで「安倍やめろ!」に共感し、こっちで「自民党も頑張ってるよねー」と頷いて(笑)。自分の立場を一旦保留して会話する、いわゆる“社交”ができる人って本当に少ないから。それ以前に、他人の話しを聞くふりができる人も少ない(笑)。

反対に、以前、らくさんが「お客さんと意味のないことをどれだけ話せるか」っていうことを考えているっておっしゃっていて、そのことにすごく感心させられたんです。らくさんが実践していることも、実は、相当に難しいことなんですよ。むしろその方が難易度が高い。

 

らく:そうですね。お客さんが楽しんでくれることが一番大切なんですけど、そのときにあんまり意味のあることを求めちゃうとお店側としても疲れちゃうんです。あと、お客さんと仲良くなりすぎるのは商売としてあまりよろしくないって分かったんです。だから、ある程度お客さんとの距離を保つためには「お互いに楽しいけどそんなに生産性のない会話」っていうのに行きついたんです。

 

伏見:これがね、また案外テクを要するんだよね。(真紀ママも)そう思うでしょ?

 

真紀:え、私? 私はもともと生産性のある話はできないから。

 

(オーディエンスの笑い声)

 

伏見:全然関係ないんだけど、真紀ちゃんの家族って、たぶん日本の歴史の中で初めて、家族のうち3人がゲイバーで働いた経験がある一家なんですよ。

 

らく:それは本を出すべきですね!

 

伏見:夫が大学生のときに体育会の関係でゲイバーでバイトして、妻がアデイで働いていて、息子もいま二丁目で働いてるんです。みんなノンケなのに!(笑) どんな家族だ!?

話を元に戻しますが、僕なんかは何を話すときもやっぱ「価値」に触れちゃうんですよね。それが激しすぎて客がいつかない。

 

らく:その方が面白いですもんね。

 

伏見:そこを面白いと感じてしまうのが僕っぽいんだけど、これがねえ、水商売としては…。それにどんな人でもふつうに会話していて「価値」に触れてしまうことから逃れることはむしろ難しい。

昔「クロノス」っていう有名なバーがあって、そこは映画好きの人が集まっていたんですね。当時の僕はあんまり尖ったところを見せたくなかったから映画の話でごまかそうと思って、「この前に『ゆきゆきて、神軍』っていう映画を観てすごく面白かった!」って話をしたのね。この映画って、戦地で隠蔽された戦争犯罪を露悪的に追及するドキュメンタリーで、いろんな賞を受賞した作品だったんで、気軽に「あの映画、今話題だけど面白いですよねー」っていう話をマスターのクロちゃんにしたら、「あんな映画が好きだなんて、あんた!」って突然めちゃくちゃ怒鳴られた。本当にびっくりしたんだけど、マスターにとっては自分が愛する映画という芸術を、政治的に人をジャスティスする道具として使われたのが許せなかったらしい。

でも、これはとてもいい経験だったんですよ。政治とかの話じゃなくても、誰かが「これが好きだ」っていう話しをしただけでも、他の人がそれによって不快だったり、傷ついている場合があることがわかった。結局、何を言っても誰かは傷ついてしまうんですよ。人を傷つけない、不快にさせないコミュニケーションなんて本質的にないのね。

だから、普通に考えるのなら、飲食店としてはISLANDSさんみたいに「意味のないことを話す」っていう姿勢を追求するべきなんですよ。

 

らく:僕は人と話すのが好きでゲイバーをやっているんですけど、一歩踏み込んだ話をして後悔することもあったんです。例えば何人かのグループのお客さんのうち、1人の話がすごく面白いと個人的にはもっと聞きたくなるじゃないですか。でも、その人がずっとしゃべると他のお客さんが白けてしまう。だからスタッフとしては、面白い話をだんだん終わらせていきながら、しゃべっていなかった人たちの方を盛り上げていく。そういう気遣いが自分にとってストレスになることもありますね。

 

伏見:僕、もう1つ、らくさんから教わった接客のテクニックがあるんです。度を越して自己表現したがるお客さんっているじゃないですか? 周りを無神経に観客にしてしまう人。そのタイプがいると、相当ネタが面白いでもない限り、周りのお客さんはうんざりする。それで、カウンターにそういう人が2人いるときはどうすればいいか。どうするんでしたっけ?(笑)

 

らく:それは「毒をもって毒を制す作戦」ですね。昔はそういう人が複数いると絶対にくっつけないようにして、それぞれ気を使っていたんです。でも、それをやるとみんなが疲れちゃう。だけど、彼らを逆に隣にしてくっつけてみたら、お互いが自分を鏡で見ているみたいになるのか静かになるんですよ。ほぼ必ず効果があるので、お試しください(笑)。

 

伏見:実践してます!(笑) 効果バッチリ!